研究課題/領域番号 |
24593202
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
東 サトエ 宮崎大学, 医学部, 教授 (60149705)
|
研究分担者 |
白石 裕子 宮崎大学, 医学部, 教授 (50321253)
加藤 沙弥佳(外山沙弥佳) 宮崎大学, 医学部, 助手 (90598088)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ナラティヴ / ナラティヴ・アプローチ / 看護実践モデル / 看護実践能力 / 看護教育 |
研究概要 |
本研究は、看護教育カリキュラムへの『ナラティヴ看護実践モデル』の導入の基礎的研究である。平成24年度は、先行研究の『看護実践におけるナラティヴ・アプローチの理論的枠組みの構築』の基本構造と展開方法を基に、文献検討と関連研修受講による知見を加えて教育内容を構成・実施・評価し吟味を行った。内容は、「看護師がナラティヴすることの意味」と「看護実践におけるナラティヴ・アプローチ」のII部構成とした。後者では、ナラティヴ・アプローチの「基礎理論(ナラティヴの本質と有用性、社会構成主義と病いの関係性など)」、「用語解(ナラティヴ・アプローチ、ストーリー、説明モデル、無知の姿勢、語り手の現在の自分と物語世界および聴き手との関係性、外在化技法、オルタナティヴ・ストーリーとしての物語の書き換え、自己の再構成)」、「実践方法の基本構造」および「実践例」について大学院生と2つの専門職者研修会で教授した。説明と同意が得られた無記名の評価(大学院生と1つの専門職者研修会受講生:総数49名)では、(1)6割が看護実践で活用したいと回答し、(2)期待効果では、対象理解と看護の質向上、看護場面の振り返りによる気づきの促進、経験の共有による患者の闘病意欲の高まり、看護者の自己開示と看護観の再認識、経験知の発掘が挙げられた。(3)今後の課題は、「理論を明確に反映したモデル事例の視覚化と討議の必要性」であった。 また、「べてるの家」を訪問し、スタッフや当事者とのかかわりを通してナラティヴを引き出す場面を参与観察し、ナラティヴ・コミュニティの特徴的実践(外在化技法、ミーティングと語り、当事者研究とその教材化、オルタナティヴ・ストーリーとしての再構成など)の意味付けを行い、ナラティヴ・アプローチとの理論的統合を試みた。更に、同施設が導入している認知行動療法とナラティヴ・アプローチとの関連づけの可能性に示唆を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、「ナラティヴ看護実践モデル」の基盤部分となる「患者・家族」と「集団(コミュニティ)」における概念枠組みと構成要素について明確にした。中でも、患者・家族におけるナラティヴとナラティヴ・アプローチは本看護実践モデルの土台になるため、授業と研修会において、率直な意見の反映に協力を求め、より質の高い構成内容にするための課題を検討した。基礎的ナラティヴ能力を育成するための方法として、授業と研修内容に「看護師がナラティヴすることの意味~看護師にとっての知と実践知を語る意味~」を教授したことは、受講者の反応から効果的であることが確認されたが、ナラティヴとナラティヴ・アプローチでは、適切な事例モデルの提示が課題として残された。事例モデルの作成にあたっては、事例の取材と吟味および教材化が必要となる。しかし、限られた授業時間に見合った効果的な事例の選択・構成・提示方法についての十分な検討は、時間的に難しかったため、次年度の計画に組み入れたい。 集団(コミュニティ)に関しては、「べてるの家」の訪問により、スタッフや当事者とのかかわりを通してナラティヴを引き出す場面の参与観察を通して、ナラティヴ・アプローチとの理論的統合を試みたので、更に洗練させていきたい。加えて、ナラティヴ・アプローチの位置づけを明確化する意味では、他の理論との関係性を捉えて教授することが効果的と考える。この点では、共同研究者と取り組んでいる認知行動療法とナラティヴ・アプローチとの共通点・相違点を明らかにし教材化する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究結果から、学習者の理解を深めナラティヴ・アプローチの実践能力を高めるためには、「ナラティヴ看護実践モデル」の構成内容に、「適切な事例モデル」を提示することが重要と示唆された。そこで、平成25年度は、ナラティヴ・アプローチの実践編として、理論に裏付けされた「核となる事例モデル」を作成し、他のモデル作成に応用できるコンセプトを内包したモデルを作成することに焦点を当てる。研究倫理申請し研究を推進する。方法としては、卓越した臨床実践を行っている複数の看護職から、実践例を語ってもらい、録音したデータを基に研究者が事例を合成することによってフィクション事例を構成しシナリオを作成する。得られたシナリオとナラティヴ・アプローチの理論および構成要素とを突き合せ、理論と整合性のある一連の実践展開事例を作成する。展開プロセスはVTRに録画し、複数の学習者に視聴覚化できるようにする。事例モデルの適切性については、看護系の大学院生と教員を対象に視聴および終了後の討議を行ってもらい、評価表と半構成的質問紙によるインタビューを行い、多角的な評価を求める。評価の結果は修正に反映し、最終的にDVD化を行い、集団および自己学習に活用できるシステムを整備する。 また、ナラティヴ・アプローチと他の理論との関係性の明確化では、継続して、「べてるの家」で取り組んでいる認知行動療法に基づいた活動である当事者研究やSST(Social Skills Training:生活技能訓練)に着目し、共同研究者(白石)の専門領域である認知行動療法との関連について検討して教材化を行い、ナラティヴ看護実践モデルとの融合を図る。なお、これについては認知行動療法の国際学会(第7回世界認知行動療法学会)に参加し、広い視野から検討を加えていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|