研究課題/領域番号 |
24593202
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
東 サトエ 宮崎大学, 医学部, 教授 (60149705)
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研究分担者 |
白石 裕子 宮崎大学, 医学部, 教授 (50321253)
加藤 沙弥佳 (外山 沙弥佳) 宮崎大学, 医学部, 助手 (90598088)
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キーワード | ナラティヴ / ナラティヴ・アプローチ / 看護実践モデル / 看護実践能力 / 看護教育 |
研究概要 |
看護教育カリキュラムへの『ナラティヴ看護実践モデルの導入』の基礎的能力育成部分である「看護師がナラティヴすることの意味」及び「看護実践における患者へのナラティヴ・アプローチ」の2つを構成部分として整理した。前者ではリフレクションの概念も取り入れた。前者では、「事例モデル」の作成に関して、「語り手が語りたい内容」を阻害しない事例モデルの提示方法を検討した。研究方法は、看護専門職を対象としたナラティヴ研修で、参加者が事前に研究者に提出した2つの看護体験記述を分析し、プロセスと関係性および内在する看護概念の図式化を試み、演習後に①研究者が期待する内容まで深められ、かつ②研究者との内容の一致が見られるかを評価し効果を確認した。事例は「ターミナル期のクレイマーと呼ばれた患者に関するナラティヴ」と「ターミナル期にある青年の不安に関するナラティヴ」を選択した。研究者によるモデル提示をナラティヴ終了後に行うことを参加者全員(72名)に事前に説明し同意を得て実施した。語り手・聴き手・観察者を1組として語り手の記述内容による相互ナラティヴを終了した後に、研究者が図式化した事例モデルを映写し説明を行った。その結果、説明と同意を得た無記名による終了後評価で、事例提供者グループから「ナラティヴをした事例がコメントされ、図式化してありわかりやすかった。私たちが言いたかったことは“あれだ!!”と思いながらみていた。」という評価が得られ、実践知が明瞭化する反応がみられた。相互ナラティヴのみを行った大学院生(7名)では、「終了後にスーパーバイズがあると、新たな課題が見えたかもしれない。」と評価された。ナラティヴの意味を高めるには、ナラティヴしたい内容の記述を求め、相互ナラティヴ後に理論に精通した指導者が記述内容に内在する看護現象を事例モデルとして提示し、スーパーバイズすることが有効と示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
看護者自身がナラティヴすることにより実践知を臨床知へと高めるための基礎的能力を獲得するためには、体験者自身が他者と相互ナラティヴすることに加えて、研究者が語り手の看護実践を追体験することにより、プロセスと関係性および看護概念を図式化し、事例モデルとして提示しながらスーパーバイズすることが効果的であることを確認できた。しかし、看護実践における患者へのナラティヴ・アプローチについては、大学院再編計画の職務に1年間にわたり忙殺された激務の中で研究時間を捻出することが極めて困難な状況にあった。そのため、理論に裏付けされた「核となる事例モデル」を作成することは今後の課題として残されている。 研究分担者である白石は、平成24年度に訪問した北海道浦河町の「べてるの家」における実践について、ナラティヴ・アプローチと白石の研究分野である認知行動療法と関連付けて考察し、「浦河べてるの家における実践とナラティヴ・アプローチの理論的統合の試み」と題した論文にまとめた。この論文は現在投稿中である。また、ナラティヴ・アプローチと他の理論との関係性の明確化では、認知行動療法に基づいた活動である当事者研究やSST(Social Skills Training:生活技能訓練)に着目し、共同研究者(白石)の専門領域である認知行動療法との関連について検討して教材化を行い、新しい知見を得てナラティヴ看護実践モデルとの融合を図るために、認知行動療法の国際学会(第7回世界認知行動療法学会)に出席した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、学習者の理解を深めナラティヴ・アプローチの実践能力を高めるためには、「ナラティヴ看護実践モデル」の構成内容に、「適切な事例モデル」を教材として提示することが重要と示唆された。平成25年度は、「基礎的能力育成部分」に該当する『看護者自身がナラティヴすることの意味』を高めるための事例モデルの教材効果と作成提示方法の検討を行ったので、前年度に引き続き事例モデルを追加する。平成26年度は「患者へのナラティヴ・アプローチ」の実践編として、理論に裏付けされた「核となる事例モデル」を作成し、学習者が看護実践モデルの概念や要素(無知の姿勢、外在化、物語の書き換え、自己の再構成など)および展開方法の理解を深め、実践への動機づけを高めるための検討に力点を置く。 方法としては、研究者・共同研究者及び研究協力者(臨床経験豊富な社会人の大学院生をふくむ)が体験した実践例の記述データをもとに複数の、事例を合成することによってフィクション事例を構成する。展開過程ではフィクションとしてのシナリオを作成する。得られた「フィクション事例」と「ナラティヴ・アプローチの理論および構成要素」とを突き合せ、最終的に整合性のある実践展開事例を作成する。展開プロセスは、複数の学習者が視聴覚できるようにする。事例モデルの適切性については、看護系の大学院生と教員を対象に視聴および終了後の討議を行ってもらい、評価表と半構成的質問紙によるインタビューを行い、多角的な評価を求める。評価の結果は修正に反映し、最終的にDVD化を行い、集団および自己学習に活用できるようにする。得られた知見をもとに成果発表及び報告書を作成する。併行して、本研究の基盤である「看護実践におけるナラティヴ・アプローチの理論的枠組み」は採択時には学会発表までを終了していたために、論文投稿を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
大学院再編計画等の職務に1年間にわたり忙殺され、頻回な予定外の会議や書類作成などで計画的に研究を遂行することができなかった。また、過労・ストレスに伴い体調不良であった。学生の教育の質を担保することが最優先課題であり、研究を遂行することは困難な状況にあった。 次年度使用額(266318円)のほとんどは、看護実践モデルの理解を促すための事例モデルを作成するために必要なデータ収集と解析および編集作業を行うための人件費であった。平成26年度は、「今後の研究の推進方策」に記述した研究計画に即して、マンパワーを活用して事例モデルの作成を推進していきたいと考える。
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