研究課題/領域番号 |
24593211
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
阿部 幹佳 宮城大学, 看護学部, 講師 (30325930)
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研究分担者 |
澤口 利絵 宮城大学, 看護学部, 助教 (90457755)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 災害 / メンタルヘルス / 市町村職員 / 看護相談 / ネットワーク |
研究概要 |
1.平成24年度に実施した被災自治体A市での看護相談概要は以下の通りであった。開催回数(本庁舎以外での開催)は17回(内6回)。利用者はA市職員のみとした。利用実数(含む計測等)は26人(のべ46人)…うち10名は計測のみで利用。新規利用者性別は男性14名(のべ26人)、女性12名(のべ20人)。新規利用者年齢は、10代1名(のべ1名)、20代2名(のべ4名)、30代10名(のべ11名)、40代7名(のべ21名)、50代6名(のべ9名)。支援内容(延べ件数のみ)は、健康相談(身体)11件、健康相談(精神)19件、計測14件、情報提供6件、その他11件(状況確認等)。相談における主訴は(延べ件数のみ)不眠5件、下痢もしくは便秘1件、肩こり・腰痛・背部痛3件、疲労感8件、抑うつ10件、イライラ・怒り3件、不安・恐怖12件、無気力9件、集中困難4件、悲観的思考3件、自責・他責11件。本人希望も含め、要注意者のA市人事係への引継ぎ人数は7名。 2.国内の災害での支援ネットワークに関する文献検討に着手をし始めた。 3.保健所、こころのケアセンター、東北大学、ボランティア団体、法律家などとのネットワークを作り、適時支援者会議を開催しながら看護相談を実施した。相談活動に必要な産業保健に関する学会や研修会に参加し相談担当者の質を保つ努力をした。 4.自記式質問紙調査については職員支援者会議の中での検討により、東北大学大学院医学系研究科予防精神医学寄附講座が実施した(K6,PHQ-9,PCLと現在の業務や被災状況を把握)。その調査でメンタルヘルスの状況が思わしくなかった職員の一部について看護相談でフォロー面接を行った。さらに調査結果を共有し、看護相談に生かした。 5.災害支援に関する国際学会や精神看護に関する国内学会へ参加し、本研究の活動について看護実践家らと意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究実施計画についてほぼ計画通りに実施することが出来た。 看護相談では月1回の面接日以外の相談ニーズに応え、PHSを利用し適時電話相談にも応じている。 やや遅れ気味な点は、災害での支援ネットワーク(以下NW)に関する文献検討であるので、今後は意識的に作業を進める。 本研究のテーマである災害後の支援NWづくりについては、支援活動を実践する中で意識的に協同関係の構築を行い、各組織と非常に良好な関係性で、それぞれの機関が得意とする支援を組み合わせながら、被災した自治体A市職員の支援を実践できている。24年度は、東北大学大学院医学系研究科予防精神医学寄附講座(以下、東北大学)が中心となり、宮城大学、みやぎ心のケアセンター(以下コケセン)が連携して5月に管理者へのメンタルヘルス(以下MH)講座とグループワーク(以下GW)の実施、10月に宮城大学看護学部の吉田俊子教授との連携でA市職員の疲労度調査の実施、12月末に宮城大学とコケセンが連携して、年末年始の相談機関の紹介とMH冊子の配布等を実施した。 さらに研究の中で、A市以外の自治体からの派遣職員へのMH支援の必要性が明らかになり、平成25年2月に東北大学が中心となり、宮城大学、コケセンが連携し、派遣職員向けのMH講座とGWを実施、GWでの参加者の発言から、翌年以降の派遣職員向けリーフレット「派遣機関を乗り切るための知恵」を作成した。 A市への介入の評価としては、職員の健康調査は、東北大学が実施したため概要のみであるが、PHQ-9の中等度以上の職員が21.4%と精神的ストレスの度合いが高いことが示唆された。しかし、A市の24年度中の休職者10名(うちメンタル不調者4名)、病休職者数314名(うち同45名)では、震災関連の者がいないという人事係の報告から、看護相談やそれに関係した支援の一定の効果が表れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1.引き続きA市での看護相談の実施をする。自治体本庁舎での健康相談も実施していくが、看護相談開催に関するニーズ把握を検討しながら、出先機関での開催回数についても検討する。利用者の健康課題を整理し、必要時A市の中にあるコケセン職員の応援も得て実施する。 2.平時からのA市におけるMH対策の再構築を行う。これは本支援の中で新たに見えてきた課題である。未だ震災の復旧復興期ではあるが、震災支援をきっかけとし従来のMH対策を見直し再構築する必要性があると考えられた。なぜならば、看護相談の利用者の一部には、震災をきっかけとしないMH不調者の利用が見られる。震災前は、周りの職員も余裕を持って彼らに接することが出来ていたが、震災後には周りの余裕がなくなりもともとのMH 不調者がさらに精神状態を悪化させる可能性が考えられたためである。 具体的には、①衛生委員会等での審議の再開(労使でMH対策を検討する)、②「心の健康づくり計画」策定の支援(看護相談に関連する内容としては、MHケアを積極的に推進する旨の表明、MH推進担当者の選任、教育研修の実施について定めることを支援する。特に、MH推進担当者の選任に関しては、嘱託産業医(精神科医師)の確保について検討を勧める。さらに、こころの健康問題により休職した職員の職場復帰支援についての検討を実施する)。 3.災害後A市職員のMH支援マニュアル策定の準備を行う。看護相談、東北大学大学院医学系研究科予防精神医学寄附講座と宮城大学による職員研修会・職員健康調査等実施してきた支援をもとに、この次に起こりうる災害への備えとしてマニュアル策定する必要がある。25年度は、支援を実施した機関を整理、活用出来そうな機関の策定、必要時ネットワークづくりを進めながら、マニュアル策定の準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に購入予定であったPCは、国際学会の参加を優先したため購入出来なかったため25年度に購入し、相談データの厳重な管理に生かす。また、相談活動の中で職員への情報提供のための道具としてタブレットPCを活用することを検討している。なぜならば、相談場所の被災自治体では、無線でのインタ-ネット環境が悪い、そのため看護相談時に活用できる資料をタブレットPCに取り込み、それを生かすことが出来ると考える。その他、研究費の多くは宮城大学と130キロ離れている、被災沿岸部の自治体までの交通費として活用する予定である。
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