研究課題/領域番号 |
24593233
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
片山 貴文 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (60268068)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 災害看護 / 体験型の教育・研修 / 被災者 / 避難所 / 心情理解 / 模擬体験 / アセスメント / 災害派遣 |
研究概要 |
東日本大震災の活動報告によると、災害支援のイメージとして、救護や救急搬送トリアージ(傷病者の治療の優先度を決定すること)を思い浮かべる者が多かったことから、慢性疾患に対応することに戸惑いがみられたことが課題として指摘されていた。 この原因としては、救護や救急搬送トリアージのような実践的・体験的な教育・研修が多く実施されている一方で、避難所の被災者や慢性疾患に対応した体験型の教育・研修方法が存在していないことが、一因としてあるのではないかと考えた。 そこで本研究は、現在行っている研究を発展させて、避難所において、被災者の心情を理解した上で、被災者から必要な情報を聞きとるような場面を体験できる新しい教育・研修方法を開発すること、とくに、急遽、災害支援ナースを派遣しなければならない事態でも実施できること、および、その教育・研修の効果を明らかにすることを目的とした。 そこで、平成24年度には、被災した場面に関する事例を収集することとした。その結果、たとえば、子供、妊婦、小さい子供を持つ親、休めない看護職、婚約者の消息が不明な人、神経質な人、アレルギーの子供を持つ親、イライラする人、血圧が高いお年寄り、親の介護で疲れている人、歩行が困難なお年寄り、仕事を失った男性、自分ひとりだけ助かった人、食べ盛りの子の親、障害児の親、行方不明のペットを探す人、あきらめと希望が半分の人、怖くて病院に行けない人といった、さまざまな事例を収集することができた。 なお、これまでは、比較的難易度の高い状況を設定していたが、到達レベルを高く設定していたことは、かえって災害時の支援活動への困難さが印象に残り、自信喪失につながってしまう危険性があった。今回の調査により、比較的難易度の低い状況を設定することが可能となったため、こうした問題に対処できるようになったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標は、模擬体験のシナリオのバリエーションを増やすことによって、ベーシック・コース、アドバンスド・コースなど、受講者のレベルに応じた状況設定ができるようにすることであった。 そこで、本年度は、被災した場面に関する被災者の事例を収集し、被災者の年齢、性別、被災してからその時点に至るまでの経緯、その時点の状況、抱えている問題、ポイントまたはキーとなる情報といった観点から、複数の被災者の事例を整理することができた。 こうしたバリエーションを増やすことができたことで、従来のように、被災者の心情を理解していなければ看護職者との行き違いを生じてしまうような難しい場面だけでなく、比較的容易に被災者の心情を理解することができる場面を設定することが可能になった。つまり、受講者が自信を持って活動できると感じられるように、受講者のレベルに応じた課題を設定することができるため、本教材を用いた体験型の教育・研修方法の応用の幅が広がったのではないかと考えている。 具体的には、例えば、比較的難易度の易しいシナリオを作成することで、災害派遣ナース養成講座の受講者だけでなく、災害看護学などの大学の講義科目の中で、看護学生を対象に展開するなど、幅広い対象者への活用ができるのではないかと考えている。 以上の内容は、平成24年度の目標としていたものであることから、本研究は、目標に沿って順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、避難所の被災者や慢性疾患に対応した体験型の教育・研修方法を評価する目的で教育を実施する予定である。なお、災害が発生して、急遽、災害支援ナースを派遣しなければならない事態でも実施できる教育・研修方法を開発することが一つの目標であるため、教育・研修時間は90分1回の完結型とし、参加者には特別な事前準備を求めることなく実施できることを目標とする。 教育を実施する機会としては、災害派遣ナース養成講座や、学部教育の講義の中で実施することなど、様々な機会を視野に入れる予定である。 評価は無記名式のアンケート調査票を用いて行い、教育の方法に関する評価項目として、(1)教育の時間は適切であったか、(2)避難所・被災者の状況設定場面は適切であったか、(3)ロールプレイの中で模擬被災者役を演じることに問題はなかったか、(4)事前の準備をすることなく実施することに問題はなかったか、(5)体験型学習の形式を用いたことは効果的であると感じたかの5つについて、それぞれ4段階のリッカート尺度を用いて行う予定である。 また、教育の効果に関する評価項目として、(6)被災者の心情を理解してかかわることの大切さが理解できたか、(7)被災者の抱える重要な問題をアセスメントできたか、(8)アセスメントの結果や活動記録をつけることの重要性を理解できたか、(9)災害支援ナースとして救護や救急搬送トリアージ以外の役割を理解できたか、(10)避難所で被災者とかかわることに自信がついたか、(11)学習目標は到達できたかの6つについて、それぞれ4段階のリッカート尺度を用いて行う予定である。 その他、基本属性(看護職としての経験年数、主な活動領域:看護師・保健師・助産師、災害時の活動経験の有無)と、自由記載により、記述的に教育効果を評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、体験型教育の方法、および、教育の効果を解析する上で必要となる統計解析ソフトSPSS Statisticsの購入を予定している。具体的には、教育前後での効果を比較する目的で使用し、教育内容に関する評価項目の(6)~(10)については、カイ2乗検定にて検証、基本属性と教育効果、および、教育の方法との関係については、多変量解析を用いて検証する予定である。 また、普通紙とトナー代、データ保存用メディアの他、体験型教育のロールプレイで用いる筆記用具、名札用紙などの消耗品の購入を予定している。 さらに、日本災害看護学会、集団災害医学会にて最新の情報を把握するため、および、研究の進捗状況に応じた成果を発表するための旅費を予定している。 なお、研究の補助として、資料整理、および、アンケートデータの入力のために謝金の支出を予定している。 また、その他の活動として、文献・資料の複写費、学会参加費のための経費の支出を予定している。
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