研究課題
基盤研究(C)
本研究は3つの研究(1.看護技術の現状調査、2.人間関係の技術の効果への影響、3.技術の結果としての『気持ちいい』の意義)を組み合わせ、3年間で実施する計画である。本年度は研究1を実施、研究2の準備を開始、研究3を進行させた。1)看護技術の現状調査 2012年7月~12月に、全国5か所の研修会等に参加した看護職476名に、無記名45項目の自記式調査用紙を配布、457部(96.0%)を回収、有効回答は374部(81.8%)であった。脈拍の測定は2001年では機器は0.9%であったが、今回は45.2%に増加し、電子血圧計やパルスオキシメータの普及による看護技術の変化が見られた。発熱の判断は一定値を超えたときが、前回54.7%から今回85.3%へ増大し、観察方法や判断においても機械化、デジタル化が進んでいることが伺えた。解熱には効果がない発熱時の腋窩や鼠径部への冷罨法は、前回79.5%、今回78.9%で変化していなかった。点滴漏れに対し、10年間で研究が進展し、温罨法、リバノ―ル湿布の無効あるいは害が証明され、冷罨法が推奨されているが、温罨法は41.8%から20.1%へ、リバノ―ル湿布は34・9%から19.8%へ減少していたものの、冷罨法は21.1%と21.4%で変わらなかった。エビデンスがあっても現場の看護に反映されていない、看護技術の実態が浮き彫りになった。2)人間関係の技術の効果への影響 本年度は準備期間とし、人間関係の生理学的反応の測定方法を検討した。3)技術の結果としての『気持ちいい』の意義 受け手が気持ちいいと感じることは、そのあとに何をもたらすのか、温罨法、手浴等のさまざまな技術を用いた研究者との討論会を3回行なった。各々の技術の直接的効果とともに気持ちよさをもたらすと、次に共通してその人らしさを取り戻す現象がみられるという仮説構築を試みた。
2: おおむね順調に進展している
概ね計画通りに実施できた。研究1.看護技術の現状調査については調査を終了し、集計、分析に入ることができた。調査票の回収数は予定より少なかったが、数を増やしても同様の結果に至ると充分に推測され、調査は終えることとした。次年度の学会発表と論文執筆を予定通りに進める事ができる。研究2.人間関係の技術の効果への影響は、本年度は準備段階と位置付けており、測定機器を試して、研究の実行可能性を検討しているところであり、これも計画通りである。研究3.技術の結果としての『気持ちいい』の意義については、活発な討論が続き、1回の討論会の予定が、3回4日にわたり、予定以上に研究を進めることができた。また、この討論会をきっかけに、参加者がモデル検証を試みる新たな科学研究費を獲得するに至る等、研究の波及効果もあった。
研究1については、25年度に看護技術の現状調査の結果を、日本看護技術学会等で発表し意見交換を行い、また論文を執筆し投稿する。調査から明らかになった課題を、今後どのような看護技術研究に結び付けていくかを検討する。研究2については、実験に用いる看護技術の選定と、効果を測定する指標の検討を行い、さらに被験者と技術実施者の組み合わせ、リクルート方法を検討した上で、研究計画書を作成、研究倫理審査を受けたのち試行する。人間関係を加味するため、実験設定が難しく研究の遂行に困難が予想されるため、あらたに連携研究者を加える。研究3については、24年度に実施した討論から、病を得ることは一時的にその人らしさを失う体験(身と心が分離する)であり、看護技術がもたらす気もち良さは、その人らしさを取り戻すことにつながるという仮説を得ることができた。当初の計画では、本年度は学会での討論を予定していたが、これはやめ、小グループでの検討の継続と、仮説の裏付けとなる文献のメタ分析を進め、論文執筆に取り掛かることとする。
今年度は、研究1の調査結果の入力等の業務委託が、予算より少額になったこと、研究3に関わる会議の開催を、学外で会場を借りて行う予算を組んでいたが、日曜日も学内で会議を行ったため、計375,295円の残金が生じた。次年度は、当初の予算1,100,000円に、今年度の残金375,295円を加えた1,475,295円の研究費となる。今年度の残金は研究2で用いる測定指標の選定と測定機材の購入に充て、他の予算は当初の計画によって進める。