本研究は女性のHIV感染防止・感染妊婦や母子の支援・性教育を包括的に捉え、助産師の立場から支援方策を構築することにある。平成24年度は「一般女性」と「ケア従事者」向けに「女性とHIV」調査の質問紙を作成した。しかし、識者からHIV調査はHIVの特別視と偏見を助長する危険があるという指摘があった。そのため調査内容をケア従事者側におき、HIVだけでなくリプロダクティブケア領域の感染対策に修正して倫理委員会の再承認を受けた。 平成25-26年度は「病院」「外来」「地域母子訪問」のケア業務に伴う感染リスクと防護策の実態把握に関する質問紙を作成し新潟県調査を実施した。他方、HIV感染女性に対して助産師による支援をテーマにグループ面接2回、延べ7名の聞き取りを行った。倫理的配慮により妊婦面接は断念した。研究協力者はエイズ拠点病院の助産師(HIV海外研修者)、認定看護師(感染管理)、専門看護師(女性の健康)、診療所助産師、地域開業助産師で構成した。 平成27年度は助産師職能団体研修会で調査結果の報告・標準予防策研修を実施後、研究協力者をファシリテーターとする参加者のフォーカスグループディスカッションを行った。参加者117名から得た372件のデータを内容分析し、課題と解決方策を抽出した。これらの結果は第56回日本母性衛生学会、第11回ICMアジア太平洋助産学会、第31回日本環境感染学会で報告した。 本研究の成果は病院-外来-地域におけるリプロダクティブケア業務の感染リスクを網羅的かつ包括的に捉え、医療の中で見過ごされている共通及び特有の課題を浮き彫りにした点にある。特に外来診療介助と母子訪問の場に注目した調査はこれまで無く、今後の取組みの糸口を提示した。同時にリプロダクティブヘルスに関する助産師の役割において、HIV感染女性や感染妊産婦など少数者のヘルスニーズに目を向ける意義をもっている。
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