研究実績の概要 |
乳腺炎の発症は、母乳育児を困難にする。発症危険因子として経験的に食事があげられているが、科学的根拠は全く解明されていない。このため、統一したガイドラインが存在せず、母親たちを混乱させている。本課題では食事成分が乳腺炎の危険因子であることを実験的に証明することを目的とした。 小腸から吸収され門脈を経て肝臓に運ばれたスクロースやその構成糖であるフルクトースが肝臓に炎症を引き起こすことは既に知られていた。しかし、乳腺組織には循環器系を介さなければフルクトースは到達できない。スクロースやフルクトース摂食マウスの血中フルクトース濃度は対照区よりも有意に上昇していることを確認した。更に乳腺組織ではGlut5発現が亢進しており、血中のフルクトースを取り込んでいることが示唆された。 授乳中のマウスから乳腺組織を摘出しトランスクリプトーム解析を行った。正規化、発現量のフィルタリングなどを行った結果、45,101個の遺伝子から最終的に信頼性の高い9,490個の遺伝子を抽出した。スクロース摂食群とマルトース摂食群とを比較して以下の遺伝子発現が亢進していることを確認した。すなわち、MAPキナーゼ経路の抑制に関与する遺伝子、脂質代謝過程に関与する遺伝子、炎症性サイトカインによって誘導されサイトカインシグナルを抑制する遺伝子、サイトカイン産生により転写が促進され、銅の運搬タンパク質をコードする遺伝子などである。これらのことから、スクロースの摂食は、乳腺組織の炎症を誘発していることが考えられた。
|