研究実績の概要 |
先天奇形の内、神経管閉鎖障害は妊娠前からの葉酸摂取により発生数低減が報告されている。神経管閉鎖障害を含め単一器官の奇形は遺伝子と生活環境の相互作用による多因子疾患であることが多い。葉酸代謝酵素はDNA合成やメチル化に重要な役割を果たすもので、この酵素活性を左右するには葉酸摂取量、生活スタイルが関与する。本研究では「環境と子どもの健康に関するモニタリング調査:北海道スタディ」の2003年から2013年までの参加者20,929名のうち、妊娠初期の自記式調査票および出産児の情報がある単胎児とその母親18,415組に対して解析を行った。染色体異常およびメンデル遺伝疾患を除く何らかの先天奇形があった児は482名であった(流産・死産含む)。最も頻度が高い先天奇形は停留精巣48名(0.59%)で、次いで心室中隔欠損症75名(0.45%)で、神経管閉鎖障害は5名(0.03%)であった。先天奇形全体と妊娠初期のライフスタイルとの関連では、生死流産別(p 0.00)、妊娠初期の受診病院および出産施設(p 0.001)、母親の最終学歴(p 0.008)、生殖補助医療(p 0.014)、鉄剤使用(p 0.010)に有意な差がみられた。妊娠14週未満の血清葉酸値、妊娠14週未満の葉酸摂取、妊娠初期の飲酒、喫煙および化学物質曝露による差はみられなかった。また、頻度の高い先天性奇形や神経管閉鎖障害と血清葉酸値も関連はなかった。今後は年齢、既往歴、喫煙・飲酒を調整因子として、葉酸値や葉酸サプリメント摂取の影響を分析する。また、ケース384名に対するコントロール768名(母親年齢±1歳、児の性別でマッチングし1:2で無作為抽出)に対してDNA抽出が終了した。今後は、葉酸代謝酵素遺伝子(MTHFR, MS, MTRR, CBS)の遺伝子多型を測定し、妊娠初期の血清葉酸値、ライフスタイルとの関連を分析する。
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