本研究は、注意欠陥多動性障害(以下、ADHD)児の母親の認知・愛着スタイルに着目して虐待発生のメカニズムを明らかにすることを目的としている。ADHD児の母親に特化した認知・愛着に関する質問紙を作成し、100名以上の被験者から回答を回収することを目標にデータ収集をした(同じ質問項目を用いて、現在子どもに対して抱いている愛着感と理想の愛着感を尋ねた)。また、ADHD群のデータ収集と並行して、健常児の母親にも同じ質問紙への回答を依頼した。2群ともに目標の100名に到達したところで以下の手順で分析を行った。ADHD群における現実の愛着感の質問項目について、主因子法およびプロマックス回転による因子分析を行い、抽出した因子ごとに2群の現実と理想の得点を算出した。独立した2群の現実と理想の因子得点の比較には、Mann-WhitneyのU検定、同一群内で現実と理想の因子得点の比較には、Wilcoxon順位和検定を用いた。2群の現実と理想の因子ごとの得点の差についてヒストグラムを作成し分布特性を検討した。 因子分析の結果、「対児感情」「子どもの理解」「子どもに対する態度」の3因子構造の解釈が妥当であることが示唆された。Mann-Whitney U検定の結果、現実の愛着感3因子は対照群の方が有意に得点が高かったが、理想の愛着感3因子に関しては2群間で有意差は認めなかった。Wilcoxon順位和検定の結果、2群ともに現実と理想の愛着感3因子間で有意差を認めた。ヒストグラムではADHD群の方が分布が負の方向に歪んだ分布を示していた。
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