ヒトの視覚系は、外界空間における運動方向をフィードバックし、姿勢保持のための重要な役割を担っている。しかし視覚機能低下により視野狭窄、コントラストや距離感覚の鈍麻、瞬時対応能力低下が生じ、転倒に結び付くと考えられている。本研究は、視覚が転倒発生にどのように関与しているのかを検討した。 高齢者159人を対象とした。質問紙は運動習慣、生活習慣、日常動作自立状況、老研式活動能力指標、過去1年間の転倒経験等を項目とした。測定は身長、体重、握力、下肢筋力、視力・動体視力、足指筋力、開眼片足立ち、眼球運動、重心動揺等であった。分析はIBM SPSS Statistics 22.0でt検定、Mann-WhitneyのU検定、ロジスティック回帰分析を実施した(有意水準5%未満)。対象者に研究は自由参加で非参加でも不利益にならない、問題があれば同意の取り消し可能、データは本研究以外には用いない等を説明した。データは施錠できる場所に保管し、コード化し個人特定は不可能とした。所属機関の研究倫理安全委員会の承認を得て実施した(許可番号2013005)。 転倒経験者は24.5%であった。転倒経験の二群間比較では、左右の眼の手術、定期的な眼科受診、普段から転ばないように気を付ける、普段からつまずくという項目で有意であった。ロジスティック回帰分析では、開眼片足立ち、定期的眼科受診で有意差があった。 視力・動体視力、眼球運動等の視覚関連項目では、転倒との関連性は見出せなかったが、眼科疾患やそれに付随する項目においては有意差があった。また、高齢者自身が普段から、転倒に注意をしておくという意識を持つこともキーポイントになるであろう。身体面が健康な良好状態であっても、視覚から入力される情報を的確に認識できる機能が転倒回避には必要であり、加えて日常生活の中で常に転倒を意識することで、その回避は強化されると考える。
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