本研究の目的は、要援護状態にある高齢者を対象に、ソーシャルサポートと精神的健康の関連を明らかにすることであった。平成24年度は、国内外のソーシャルサポートに関する研究動向を整理した。合わせて1地域の要援護高齢者を対象としたアンケート調査結果を分析した。その結果、要援護高齢者においては他者からのソーシャルサポートを受領する機会が増え、ソーシャルサポートの受領に対して十分な返報ができないことから生じる心理的な負債感から、自己評価(自尊感情)を著しく低下させている者が少なくないことが示された。研究結果を論文にまとめ2学会誌に発表した。平成25年度は得られた知見をもとに、さらに要援護高齢者の精神的健康の維持向上に関する示唆を得るために、本調査の本格的実施準備に入った。 平成26年度は、A県6地域600人の介護保険の認定を受けた要援護高齢者を対象に無記名自記式質問紙によるアンケート調査を実施した。地域高齢者と比べて要援護高齢者は社会的孤立状態を示すスコアが低く、家族・友人・近隣の人々を中心とする社会的ネットワークが縮小していることが確認された。また、年齢や身体機能といった身体的要因のみならず、世帯構成や教育歴、経済状態等の社会経済的要因も社会的孤立のリスク因子となりうる可能性が示唆された。さらに、男性ではソーシャルサポートの「愛着」機能が高い者ほど精神的健康が良好である傾向がみられた。女性では「指導」「価値の再保証」の各機能が高い者ほど、精神的健康が良好である傾向がみられた。これらソーシャルサポートの機能は、要援護高齢者のストレス対処や自尊感情の維持・回復に役立つ可能性がある。以上、ソーシャルサポートは要援護高齢者の精神的健康を維持向上する上で重要な因子である可能性が示唆された。平成27年度は「要援護高齢者のソーシャルサポートに関する研究報告(平成28年3月)」の報告書を作成した。
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