研究課題/領域番号 |
24593523
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研究機関 | 群馬パース大学 |
研究代表者 |
木村 朗 群馬パース大学, 保健科学部, 教授 (20367585)
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キーワード | 高齢者 / 片麻痺 / 身体活動 / 睡眠 / 睡眠周期 / 脈波伝搬速度 / 静脈還流回復時間 / 療養支援 |
研究概要 |
平成25年度に実施した研究の成果として、興味深い発見が得られた。高齢片麻痺者の血管機能において身体活動の影響と併せて睡眠時の特定の周期にあたる体動時間と血管機能の間には高い関連性が認められた。 本研究は脈波伝搬速度および静脈還流回復時間を指標として血管機能の増悪を防ぐための活動・休養・睡眠の影響の評価を試みている。看護・介護・リハビリテーションの在り方を探索する中で、介護老人保健施設を利用する高齢片麻痺者の加齢および身体不活動による血管機能劣化の緩徐化に及ぼす活動・休養・睡眠の時間配分(調整)の影響を調べている。 活動・休養・睡眠の時間配分(調整)がそれぞれ中央値で10%以上の差のある群とない群を選択し観察介入前向きコホートを行っている。研究開始以降、28名のデータが得られた。これまでの分析から、血管機能の劣化に対する影響は、自立歩行可能な片麻痺者では身体活動および休養時間、睡眠時間の割合の違いの影響は時間の比率でみて10%程度の範囲である場合、8週間では有意な低下は認められない。 しかし、睡眠時の体動と血管機能の関連性が示された。具体的には、入眠直後から60分程度経過した身体体動がみられないレム睡眠期から再びノンレム睡眠に向かう時と推定される(軽度体動出現期)の体動時間が平均4回ほど認められたが、この総時間が60分以上ある長い群では、それより短い群に比べ血管機能の低下緩徐化が認められた。 この現象の臨床像は片麻痺の影響で寝返りが困難な者にあっても、軽度体動出現期の健側上肢の動きを示した場合を含んでいる。高齢片麻痺者における活動・休養に加え、睡眠の時間的要因という量的な要素から、睡眠の特性である睡眠周期の適正化と睡眠時体動が保たれる条件の探索が必要であろう。これらが明らかになることで非常に有益な療養支援方法のエビデンスが得られ、増加する高齢者の健康危機管理に役立つであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画で挙げた目標と照らして、達成している内容としては、 1)発症から2年以上経過した脳血管障害後遺症による片麻痺者の左右上下肢の脈波伝搬速度および下肢静脈還流機能の6時間ごとの日内変動値について、12例のデータを得て、解析が終了できたことが、計画の目的達成に貢献したと考える。当初計画のデータケース数よりも少ない結果になったが、睡眠時間の測定装置の変更、プロトコールの調整、脈波伝搬速度に最も影響する24時間血圧変動(ABPM)の測定装置の片麻痺者用装置を国外から輸入したことなどから、ケース数を抑えながらも必要最小限の統計学的サンプル数を確保できたため、より正確な測定値を得られたことが達成度を高めたものと考える。 2)日内変動値から代表値を求め、1週間の身体活動強度と持続時間、睡眠時間と睡眠時体動量との相関と効果量を明らかにすることについては、16例のデータが得られ、解析が終了したことから、研究の目的達成に貢献したものと考える。 当初計画のデータケース数よりも少ない結果になったが、1)同様、睡眠時間の測定装置の変更に伴う測定精度の検証、24時間血圧変動(ABPM)の測定装置の片麻痺者用装置の測定プロトコールの見直しと改善を行ったことから、ケース数を抑えながらも、必要最小限の統計学的サンプル数を確保し、より正確な測定値を得ることができた要因と考える。 この知見について国際学会における発表の機会が得られたことも達成度を高めたと考える。 3) 8週間の活動・休養・睡眠の時間配分への介入とリズムを分散させる介入が維持期片麻痺者の脈波伝搬速度、静脈還流機能に及ぼす影響を分析し、最適な調整モデルを提示することについては、前向きコホートのデータ解析を次年度に進め、モデルの提示を目指す予定である。この段階に当初の計画より早く達したことが、当初の計画以上に進展していると考える理由である。
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今後の研究の推進方策 |
維持期(生活期)における脳血管障害後遺症による片麻痺者において、これまで検討してきた活動・休養・睡眠の量的な側面からの血管機能への影響に加えて、特に睡眠周期における体動を促進あるいは抑制する要因と環境条件を明らかにする必要がある。 脈波伝搬速度および静脈還流機能について機能劣化と活動・休養・睡眠との関係の実態が明らかになった。しかし、新たな課題として、高齢片麻痺者の血管機能において身体活動の影響と併せて睡眠時の特定の周期にあたる、レム睡眠期から再びノンレム睡眠に向かう時と推定される(軽度体動出現期)の体動時間と血管機能の間に高い関連性が認められたことから、睡眠時の体動を看護・介護・リハビリテーションの専門家がエビデンスに基づいて療養支援するための新たな取り組みが必要性が生じている。 実用性を担保しうるサンプル数の確保、研究のプロトコールの確立に加え、測定装置のICT化が課題である。課題は睡眠時体動の測定技術において、超小型三次元加速度センサーの開発が待たれるが、今年度実用化がなされたことは朗報である。これらの技術の実装性研究を行う事で、この分野の有力な研究推進力となる。 国際的に深刻な社会的問題である増加する高齢片麻痺者の再発による重症化の抑制に役立つことが期待される。施設から在宅療養における活動・休養・睡眠の調整による効果的な健康管理の方法を見出せることに加え、エビデンスのある看護・介護・リハビリテーションの方法を明らかにすることが可能になる。特に、睡眠周期の適正化と睡眠時体動の適正化条件の探索が必要である。 以上、本研究の結果、進展した知見によってもたらさせた新たな課題に対して、従来、看護・介護・リハビリ領域において行われてきた四肢・体幹のpositioningに臨床疑問が顕在化しているため、ICTを活用した睡眠時体動の調整要因の解明と介入効果検証を検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年3月に情報収集目的でマレーシア国における国際学会(ICO2014)に参加したが、この旅費の予算を平成26年度に繰り越したため。 26年度に予算の遂行処理を行う。
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