研究実績の概要 |
本研究では,生育歴によって形成される1次嗜癖が2次嗜癖であるアディクションを成立させているという概念を提唱しており,アルコール依存症者の「生きづらさ」は1次嗜癖から生じるものであると考える。 そこで,アルコール依存症者の生きづらさの存在と1次嗜癖の回復過程を明らかにするために,自記式質問紙留置調査法による量的研究を行った。研究対象は,関東甲信越全都県のアルコール依存症の自助グループに参加している男性アルコール依存症者である。また,コントロール群として,同地域の30-70歳代の健康な男性を対象とした。アルコール依存症者本人が書いた手記の分析を基に開発した「生きづらさ」に影響する因子に関する質問と評価過敏性‐誇大性自己愛尺度(中山他, 2006)で構成した質問紙を用いた。分析方法は,アルコール依存症者群およびコントロール群の2群、アルコール依存症者を断酒期間で4群に分けて,統計的な分析を行った。 今回対象としたアルコール依存症者の半数以上が生きづらさを抱えており,コントロール群よりも割合が高かった。アルコール依存症者の「生きづらさ」は,他者評価への過敏な傾向、他者を理解する力と自己を承認する力が低く,孤独感の欠如,認知の歪みが強いという特徴があった。これらは幼い頃の愛着欲求の充足困難と自我確立の阻害に起因する依存の精神病理の傾向であり、一次嗜癖の存在を証明できたと考えられる。 さらに、アルコール依存症者の生きづらさは,断酒期間が長くなると低減し,生き方への満足感と自己肯定感,他者を理解する力が高くなるが,孤独感を感じるようになることが明らかとなった。 アルコール依存症者の回復過程は,自助グループの仲間との関係の中で,他者を理解する力を高め,自分の内側をみつめて孤独を感じるようになり,自分の生き方への満足感と自己肯定感が高まる経験を積み,自己を成長させていくことである。
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