研究課題
近年、発達障害児者に対し教育機関が積極的に支援していくことは重要な課題である。本システムでは発達障害児者の対人的スキル向上を支援するために、他者理解の特性を解明し、特に状況の中での表情認知の能力に焦点をあて表情認識の弱さの原因を行動・認知・生理指標の特徴から解明して支援を行う。主要な目的は、①発達障害児者の行動の特徴分析:学校、家庭内での行動履歴の収集・分析、②表情認識アプリケーションの開発、③コミュニケーション時の表情の同調性のための表情筋トレーニングシステム開発の3点である。平成25年度は次の(1)(2)のシステムの開発と、それを用いた予備実験を行った。(1)表情認識アプリケーション:コミュニケーション時に相手の表情を認知することは重要であるが、認知をサポートするシステムである。具体的には相手の表情をリアルタイムに分析するアプリケーションをパソコン(あるいは、携帯端末)に実装し、発達障害児者に表情認知の場面で利用してもらい評価する。本コミュニケーション実験において、被験者の相手となる者は、療育の専門家や従事者が担当するなど配慮する。(2)コミュニケーション時の表情の同調性のための表情筋トレーニングシステム:発達障害児者と定型発達児者の表情同調の実験分析結果より、発達障害児者の同調の弱さを解明し、発達障害児者が同調すべき表情を意図的に作るためのトレーニングを中心に行う。具体的には、定型発達児者が表出する表情筋と発達障害児者が表出する表情筋に差がある部分に関し、以下のi)、ii)の方法によりトレーニングを行う。i)表情の同調トレーニングを行う際に、顔面筋を計測しながら、目的の表情をつくる上でうまく動かしていない表情筋に振動子によりバイオフィードバックを行い教示する。ii)画面上の自分の表情を確認しながら、目標表情に合わせるように表情をつくる。
2: おおむね順調に進展している
場面に応じて適切な自然な表情をつくることは、表情を介して円滑なコミュニケーションを行う上で非常に重要である。我々は、このようなことを苦手としている人達の対人スキルを向上させるための新しい表情トレーニングシステムの開発を進めてきた。従来から我々は、画像処理を用いた表情訓練システム(訓練者の顔画像をモニタに表示し、表情筋のトレーニングメニューに従い、モニタを見ながら自分の表情を確認するシステム)の開発に取り組んできた。今回の研究テーマはその延長線上にある。銀皿電極を訓練者の顔面に貼付して顔面筋電図を計測し、目標の表情をつくるときに必要とされる表情筋の活動を調べ、訓練結果のデータを記録するとともに、訓練者にもその活動の様子をフィードバックする新しいシステムを作ることを目的としている。従前より、表情トレーニングに必要となる基礎的なデータ(表情と表情筋電位活動に関するデータ)の分析を行ってきたが、平成25年度は、特に訓練者にとって訓練効果を向上させるために欠かせないフィードバック情報(視覚情報としてパソコンモニタに表情筋活動の様子を表示、感覚情報として振動モータによる表情筋への微細な振動による刺激)を実現するためにリアルタイム処理を構築し、それらの動作確認や調整なども順調に進んでいる。また、トレーニングの効果について、サーモグラフィにより表情筋の活動を詳細に分析も進めている。特に、模倣学習時の脳波解析においては、IEEE-EMBC2013やAMT-BHI2013などの国際的評価も高い国際会議にも採択され発表できた。
平成26年度の計画・方法は、25年度中に開発した下記(1)、(2) のシステム(詳細は前出の研究実績の概要で記載)を発達障害児に実際に利用してもらうことで評価を進める予定である。(1) 表情認識アプリケーションシステム(2) コミュニケーション時の表情の同調性のための表情筋トレーニングシステム被験者・保護者・専門家・支援者と事例検討会で検討し、発達障害児の認知・生理機能の特徴に基づく支援として、発達障害児の苦手な部分を強化するための効果があるかを評価する。
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