研究課題/領域番号 |
24600006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
村松 郁延 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特命教授 (10111965)
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研究分担者 |
西宗 敦史 福井大学, 医学部, 助教 (40311310)
宇和田 淳介 福井大学, 医学部, 助教 (70580314)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ムスカリン受容体 / ストレス |
研究概要 |
成育初期のストレスが、その後の精神的発達に著しい障害を引き起こすことはよく知られている。しかし、その分子メカニズムは未だ十分に研究されていない。私たちは、高次脳機能に関係すると考えられているM1ムスカリン受容体に着目し、その生理機能とストレスとの関係を追究した。初年度は、M1ムスカリン受容体の脳内での分布と機能を調べた。その結果、M1ムスカリン受容体が大脳皮質と海馬では、特異的に細胞膜だけでなく細胞内(ゴルジ装置など)にも存在することを発見した。そして、この細胞内M1ムスカリン受容体は、IP3-Ca系と共役する細胞膜M1受容体と異なり、MAP kinase系を特異的に活性化する機能的受容体であることを見つけた。細胞内M1ムスカリン受容体は高次脳領域に特異的に分布していたことより記憶・学習と関係すると考え、海馬スライス標本を用いた電気整理実験においてlong-term potentiation (LTP)に対する影響を調べた。その結果、LTPの初期相は細胞膜M1ムスカリン受容体で増強されるが、後期相は細胞内M1ムスカリン受容体を介して特異的に増強され、さらにそれはMAP kinase系を介しているという大変興味ある結果を得た。この結果は、従来細胞膜にのみ存在し機能する膜受容体と考えられていたM1ムスカリン受容体が、脳では特異的に細胞内にも存在すること、そして記憶・学習と関係するLTPに膜受容体とは異なるシグナル系で関与するという、従来とは全く異なるコリン作動性神経の中枢での新機軸を導いた。今後は、このM1ムスカリン受容体系が、ストレスでどのように影響されるか、検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムスカリン受容体は、代表的な細胞膜受容体である。本研究において、M1ムスカリン受容体は高次脳領域では特異的に細胞内にも存在することを発見した。そして、細胞膜と細胞内M1ムスカリン受容体は、別々に記憶・学習に関与しているという全く新しい概念へと発展した。本結果は、従来の受容体概念を覆すものであり、未だ解明が不十分な高次脳機能を解析するブレイクスルーになることが示唆される。今後はストレスとの関係を調べ、何故ストレスで記憶・学習が傷害されるか、さらには精神的発達障害との関係を調べていく。なお、論文は現在投稿(リバイス)中であり、レフリーからは高い評価を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内M1ムスカリン受容体が刺激されるためには、内在性アゴニストacetylcholine (ACh)が神経細胞内に特異的に取り込まれる必要がある。しかし、その取り込み機構すなわちACh transporterは、まだ同定されていない。今後は、ACh transporterを同定し、その特異的薬物を同定して記憶・学習に対する影響を調べる。また、成育初期のストレスのM1ムスカリン受容体及びACh transporterに対する影響を調べ、記憶・学習のメカニズムの解明とストレスとの関係を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
ACh transporterを同定する放射性リガンドとクローニング用試薬、ストレスを負荷する動物の購入に使用する。
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