研究概要 |
日本の教育現場では現在,「小1プロブレム」と呼ばれる問題が起きている。教員の話を聞かない,指示通りに行動しない,授業中に立ち歩くなどの行動である。このような問題行動は実行機能(Executive Function)の未熟さに起因する, と捉えることができる。 筆者は,特に注意集中とセルフコントロールを強調し,実行機能と社会情報処理能力の育成を意図したSTART(Social Thinking & Academic Readiness Training)プログラムを開発した((株)医学映像教育センター)。そこで,本研究ではSTARTプログラムの中の実行機能に関連する内容を就学前児に実施し,その効果を小学校低学年まで縦断的に検討することを目的とした。 幼稚園,保育所へ通う5,6歳児207名(男児90名, 女児117名)を対象とし,実行機能の測定として,行動性セルフレギュレーションの指標として知られているHTKS (Head-Toes-Knees-Shoulders)課題(Cameron & McClleland, 2011), WISC-IIIの逆唱課題, K-ABCの手の動作課題を実施した。測定は年長児期の10月に行った。 それらの就学前児(5,6歳児)を対象とし,小学校入学後の学習成績について検討を行った。測定は小学1年生の3学期に行った。実行機能測定後16カ月経過していた。算数,国語,社会性について担任教師に5段階での評価を依頼した。得られた結果から欠損値を除外すると164名のデータが得られた。HTKS課題では算数(r=.165, p=.035)と社会性(r=.183, p=.019),K-ABC手の動作課題は算数(r=.326, p<.001),国語(r=.350, p<.001),社会性(r=.247, p=.001),WISC-IIIの逆唱課題では算数(r=.357, p<.001),国語(r=.293, p<.001)との有意な相関が認められた。これらの結果は,就学前時の実行機能が小学校入学後の算数,国語の成績に関係することを示唆している。
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