本研究の目的は、東アジア4地域(日本・韓国・香港・台湾)の保育における絵本環境を比較文化的に描き出すことである。そのため、(a)国・地域、(b)幼稚園、(c)保育者の3つのレベルから、幼稚園5歳児クラスの絵本環境に関して「理念・施策」(保育全般・絵本)と「実践」(物理的環境・人的環境)の2側面から調査を実施した。平成27年度は台湾・香港の「実践」について現地調査を行い、4地域の絵本環境の比較を完了し、結果をまとめた。本研究の成果発表として、韓国、台湾、中国の絵本研究者を招聘し、シンポジウム「東アジアの絵本から保育の未来をひらく:韓国・台湾・中国の絵本の今と、保育のこれから」を開催した(2016年3月29日)。 主な研究結果は、以下の通りである。 ①東アジア4地域の絵本環境の共通性:いずれの地域においても、絵本は近年、質量共に充実してきており、保育においても重要な教材として位置づけられていた。絵本の部屋や各保育室への絵本コーナーの設置、日常的な保育者による読み聞かせなどが実施されていた。 ②日本の絵本環境の独自性:日本では「想像力・イメージ」「人とのつながり」が重視され、子どもの生活と関連づけながら、保育者や友達と絵本を介した共通体験や一体感を味わうことが大切にされていた。他の3地域では、小学校教育との接続の観点から「読む」「内容理解」など、学力の基礎を培うことが重視され、実践においても保育者の読みを復唱したり、読み聞かせの録音を子どもが個人で、あるいは少人数で聞くなど、言語習得の教材として位置づけられていた。 こうした日本の独自性を生む社会歴史的要因として、植民地化の経験をもたず、原則として国語(日本語)で言語文化を築いてきたこと、いち早く西欧文化を取り入れ近代化を進める中で絵本文化を充実させてきたこと、漢字だけではなく仮名文字をもち、文字習得が容易であることなどが挙げられた。
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