本研究の目的は、乳幼児期の人見知りのメカニズムを「行動ー脳ー遺伝」の3つのレベルから明らかにすることである。まず、本年度も引き続き生後4~18ヵ月の乳幼児を対象に、人見知りの発達変化を縦断的に追跡した。人見知りは出現時期や継続時間、強さに個人差があるためである。Colorado Childhood Temperament Inventory (CCTI) 人見知りアンケートを毎月1回、ウェブ上で行い経時調査を行った。CCTIは養育者が回答するアンケートである。現在、全国から800名を超える被験者に参加してもらっている。結果、通常言われている7~9ヵ月で人見知り現れる一方、早4ヵ月から現れる児、12ヵ月を過ぎてから現れる児、ほとんど人見知りが現れない児、ずっと人見知りが続く児など、多様性に富むことが分かった。また、人見知りのピークは1度だけであることも分かった。視線計測装置を使った研究結果では、人見知りの児は相手の目を良く見過ぎてしまい、結果的に固まって泣くことが示唆された。この結果は、驚きをもって迎え入れられ、招待講演の依頼やマスメディアで広く紹介された。学童期の子どもを対象とした心理学研究ではすでに、「人見知りとは接近と回避の葛藤状態である」と報告されている。本研究によって、1歳前の乳児でもすでに「葛藤」を抱えた状態で人見知りすることが初めて示唆された。人見知りのメカニズムを知ることで、逆に人見知りを全くしないとされる発達障害の理解にも役立つと期待できる。
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