研究課題
陽電子放出断層撮像法(PET)は画像診断や分子イメージング研究に有用な手法である。その有用性は装置物理特性の品質管理(QA・QC)に支えられ、なかでも大切なのが装置校正と定量性評価である。しかし、ファントム及びドーズキャリブレータ、ウェルカウンタを用いる従来法では信頼性・利便性に限界があった。そこで、本研究では、新しいトレーサブルな点状線源を用いる校正・評価法を開発し、その利便性・信頼性を従来よりも格段に向上させることを目的とする。当初の研究実施計画にほぼ準じて研究計画を進めるなかで、平成25年度には以下成果を得た。1.点状線源の開発:アクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源について、その製造方法の技術的な課題を克服し試作が可能となった。また、Monte Carloシミュレーション手法を用いた物理特性評価を進めその仕様をほぼ決定した。今後、本点状線源を試作し提案手法に活用することを計画している。さらに、点状線源内部構造を非破壊的に精密評価するためにマイクロフォーカスX線イメージング装置を用いる手法を、治療用密封小線源の内部構造評価にまで応用して貴重な成果を得た。今後、本成果をさらに発展させることを計画している。2.校正・評価法の開発:校正定数を決定しその変動等を評価する手法を臨床用PET/CT装置に長期間適用し、提案手法の有効性を明らかにした。また、アルミニウム吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源と樹脂ファントムを組み合わせる新しい定量性評価法を開発し、校正定数の不確かさと散乱・減弱補正の不確かさを分離して評価できる可能性を明らかにした。今後、装置校正法、定量性評価法、基本的物理特性評価法、以上3つの視点から提案手法を発展させ検証することを計画している。3.多施設連携:5施設7機種にまで対象を拡大し提案手法の検証を進めた。今後、さらに連携を拡大することを計画している。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記載の研究目的は、(1)新しいトレーサブルな点状線源の開発、(2)トレーサブル点状線源を用いる校正・評価プロトコルの開発、(3)連携施設と対象装置の拡大、以上の3つの部分から構成される。(1)では、アクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源について、その製造技術の課題を解決し、Monte Carloシミュレーション法を用いた物理特性評価により仕様をほぼ決定した。本件は初年度からの大きな懸案事項で、その問題を克服し試作可能な段階に至ったことは大きな成果である。さらに、点状線源内部構造をマイクロフォーカスX線イメージング装置により評価する手法を、新たに治療用密封小線源にまで適用し、当初想定していなかった発展性のある貴重な成果が得られた。(2)では、装置校正法、定量性評価法、基本的物理特性評価法、それぞれについて着実な進展が得られた。とくに、装置校正法では、トレーサブル点状線源を有効視野中央部に設置して校正定数を決定する手法を臨床用PET/CT装置に長期的に適用した結果、従来法ではわからなかった新たな知見が得られつつある。定量性評価については、Ge-68/Ga-68点状線源と樹脂ファントムを組み合わせる新しい定量性評価法を試験的に導入し、校正定数の不確かさと散乱・減弱補正の不確かさを分離して評価できる可能性を明らかにした。また、装置感度や散乱フラクションなど複数の性能評価項目に対しても提案手法を適用できることを明らかにした。(3)では、5施設7機種にまで連携対象を拡大することができた。また、関連学会の活動などを通して、さらなる多施設研究を展開する見通しが得られた。以上のとおり、当初研究実施計画を着実に進展させるとともに、当初想定していない新たな展開も生まれ、進捗状況を総合的に考えると、当初の計画以上に進展していると判断できる。
平成25年度に研究活動が着実に進展したことを受け、平成26年度も、基本的には交付申請書における研究実施計画に即して研究を進めることを推進方策とする。すなわち、研究計画は(1)新しいトレーサブルな点状線源の開発、(2)点状線源を用いる校正・評価プロトコルの開発、(3)連携施設と対象装置の拡大、以上の3項目から成る。(1)では、アクリル吸収体タイプのトレーサブルGe-68/Ga-68点状線源を試作し、その内部構造を非破壊的にマイクロフォーカスX線イメージング手法により評価する。また、その物理特性をMonte Carloシミュレーション手法により明らかにする。そして、さまざまなトレーサブル点状線源の相補的で最適な活用法を明らかにする。また、それらを標準線源として供給する可能性を検討する。さらに、上記内部構造評価法を治療用密封小線源の内部構造評価と品質管理に応用する。(2)では、プロトコルを装置校正法、定量性評価法、基本的物理特性評価法の3種類に分け、それぞれについて開発と検証を着実に進める。装置校正法では、提案手法を臨床用PET/CT装置に適用する研究を長期的に継続し新たな知見を得る。とくに、平成25年度に得られた知見にもとづき、温湿度変化との相関にも注目する。定量性評価では、新たに導入する予定のアクリル吸収体タイプのトレーサブルGe-68/Ga-68点状線源と樹脂ファントムを組み合わせる手法の有効性を検証する。また、基本的物理特性評価法では、利便性の高い主としてNa-22点状線源を用いて、さまざまな性能評価項目に提案手法を適用する手法を検証する。(3)では、本年5月に新病院に移行する北里大学病院に導入される新型PET/CT装置を対象に提案手法を適用するなど、連携施設と対象装置をさらに広げていくことを目指すなお、当初予期しない成果や発展の道が開ける場合には、研究計画を柔軟に発展させて研究活動を展開するものとする。
本研究計画では、提案手法の信頼性の向上と評価のためにGe-68/Ga-68タイプの点状線源が重要な役割を担っており、その開発を大きな課題と位置づけている。すでに、アルミニウム吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源については試作済みで、平成25年度研究活動のなかで利用して着実な成果を得てきた。しかし、樹脂ファントムと組み合わせて使用する手法に適するアクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源の開発については、その製造にかかわる技術的課題を解決するために平成25年度末までの期間を要した。この結果、本点状線源試作のための予算を平成25年度内に執行することができず、次年度使用額が生じた。なお、本点状線源の仕様については、Monte Carloシミュレーション手法を活用した物理特性評価にもとづきほぼ決定しており、平成26年度の早い段階にて発注する見込みである。研究費の使途は、(1)トレーサブル点状線源の試作にかかわる費用、(2)放射線源の安全取扱にかかわる費用、(3)プロトコル開発にかかわる費用、(4)研究成果発表等にかかわる費用、(5)その他の費用に分けられる。(1)では、アクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源の試作費用他を見込む。(2)では、放射線源の運搬・保管用シールド等にかかわる費用他を見込む。(3)では、ファントム作成費用、温湿度測定装置にかかわる費用他を見込む。(4)では、学会発表・情報収集等のための旅費・参加費、英文での成果発表等にかかわる費用他を見込む。(5)では、研究打ち合わせ費用、Monte Carloシミュレーション・データ解析等用のPC購入費用、その他消耗品費用他を見込む。なお、研究の進捗状況や予期しない新たな展開に応じて、ここに明記しない費用が生じることも想定する。
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