研究課題/領域番号 |
24601016
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今井 貴雄 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (10383712)
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キーワード | 放射線 / p53 / 幹細胞 / 神経幹細胞 / DNA傷害 |
研究概要 |
本研究は、低レベル放射線暴露の人体への影響を迅速・簡便に評価できる系として、放射線障害を指標可能なヒト由来培養細胞を遺伝子組み換え技術を用いて開発することを目的とした。本研究での対象は、胚性幹細胞・神経幹細胞といった胎児期に存在する「幹細胞」であり、試験管内で培養可能な細胞である。この幹細胞技術と、蛍光蛋白質・生体発光蛋白質を用いた分子細胞イメージング技術を用いて、二重鎖切断を引き起こし得る薬剤または放射線の暴露があった場合の細胞障害度について、視覚的・定量的な評価を可能にすることが研究期間を通じての達成目標である。 平成24年度においては、p53遺伝子を含むBAC上のp53遺伝子ストップコドンをdVenusLuc2で挿入置換したBACレポーター遺伝子をES由来神経幹細胞株に導入する作業を行った。平成25年度においては、得られた複数の安定保持株を用い、自己複製的増殖(ニューロスフェア形成能)に関する神経幹細胞の性質について、二重鎖切断剤または放射線を照射する前段階の評価を行った。その結果、得られた複数の株間において、上記の性状解析の数値の隔離が見られた。染色体上にBAC遺伝子が挿入された位置の違いが株細胞間の性質に影響を与えたものであると予想されたため、これを改善すべく、平成25年初頭にFeng Zhangらによって新たに発表された技術であるゲノム改変法CRISPR-CAS9を用いて、フィーダーレス培養が可能になったiPS細胞(201B7株)のp53遺伝子座におけるストップコドンをdVenusLuc2に挿入置換する作業を行った。現在、この安定保持株を選別中であるが、選別され次第、iPS細胞からの神経分化培養法が既に確立されているので、平成26年度はDNA二重鎖切断剤と放射線照射(X線を予定)による細胞影響の評価を遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度においては、本研究が利用することが可能な大きな技術的革新が二点あり、研究の目的遂行のために利用することにした。1点目は、Feng Zhangらによって開発されたゲノム改変技術の一つであるCRISPR-Cas9システムが発表され、ゲノム上の任意の部位について遺伝子改変が可能になった。このため、本研究で使用するLuciferase-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子をp53遺伝子座に組み換えて挿入することが可能になり、当研究もこの技術を用いることにした。2点目は、iPS細胞が培養されるに当たっては、これまではフィーダーと呼ばれるマウス由来の細胞のシート上で培養しなければならなかったが、2013年度中にフィーダー細胞が要らない培養法が開発され、遺伝子導入実験およびその選別作業を行うことが比較的容易になった。この2点の技術的進歩によって、当初の研究計画にあったiPS細胞のp53遺伝子座にレポーター遺伝子が組み込まれたレポーター幹細胞の作製が可能になった。本研究の目的達成のためにこれら2点の技術革新を導入することにしたため、現在において「やや遅れている」状況であると自己評価した。しかし、3年間の研究期間内には研究遂行が完了することは十分に可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の前半に、平成25年度で完了させる予定だった内容の研究を行うことになった。平成26年度の後半には成果発表を行う準備・作業を行う予定である。総合的には、3年間の計画達成に影響を及ぼさないと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額の発生は、効率的で無駄のない物品調達を行った結果、発生した未使用額である。 平成26年度の消耗品費に充てて研究内容の更なる充実を図ると共に、成果発表のための資材、必要経費に充てる予定である。
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