本研究での対象は、胚性幹細胞(またはiPS細胞)・神経幹細胞といった胎児期に存在する「幹細胞」であり、試験管内で培養可能な細胞である。この幹細胞培養技術と、蛍光蛋白質・生体発光蛋白質を用いて、二重鎖切断を引き起こし得る薬剤または放射線の暴露などによる細胞障害度について指標可能なレポーター遺伝子の作成およびその保持細胞株の樹立を目指すものである。 前年度までに、p53遺伝子座を含むBAC (RP11-89D11)上のp53遺伝子ストップコドンをdVenusLuc2で挿入置換したBACレポーター遺伝子を作成した。このBACレポーター遺伝子をES由来神経幹細胞株に導入すると本来のp53遺伝子座とは異なる染色体上に保持されるトランスジェニック細胞が得られるが、より正確な細胞障害シグナルを得ることを目的とするため、細胞内在性のp53遺伝子座にレポーター遺伝子を挿入可能な技術を模索していたところ、Feng ZhangらによってCRISPR-CAS9を用いたゲノム改変法技術が開発され、この技術を用いて本研究の作業を行う方針とした。本年度においては、H9 ES由来神経幹細胞株のp53遺伝子座のストップコドンをdVenusLuc2 (ストップコドン有)に置換する相同組み換え挿入を可能にするドナーDNA、同じくストップコドンを2Aペプチド-NLS tag BFP (ストップコドン有) に置換する相同組み換え挿入を可能にするドナーDNAを構築した。さらに、Cas9を発現するためのプロモーターの選択、至適なガイドRNAの特異性を検証するための条件検討、また、電気穿孔法の遺伝子導入条件の検討を行った。これらドナーDNAと、ガイドRNA、Cas9蛋白質を発現するplasmidベクターを電気穿孔法により神経幹細胞株に導入し、レポーター遺伝子が適切に挿入されている細胞を選別し、株化を達成した。
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