研究課題/領域番号 |
24601019
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
吉田 英治 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター, 主任研究員 (50392246)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PET / 検出器 / シミュレーション |
研究概要 |
PET装置の体軸視野は一般的に約20cmであり、全身を撮像する際には複数のベッド位置での測定が必要となる。一方、マイクロドーズ試験等においては全身を一括で測定できるPET装置が切望されているが、コスト面等から実現していない。本年度は測定対象部位ごとに体軸視野を可変なPET装置の実現可能性についてシミュレーションを元に検討した。考案した積層視野可変型PET装置(Axially extendable multiplex cylinder PET: AEMC-PET)はシンチレータと半導体受光素子であるG-APDを積層した独立型3次元検出器から構成され、3次元検出器の各層を体軸方向にスライドさせることで従来と同程度の量のシンチレータで体軸視野の拡張が可能になる。体軸視野を拡張するとシンチレータ厚が薄くなることで感度の低下が懸念されるが、視野の拡大よって測定回数を低減できると考えられる。本研究ではモンテカルロ・シミュレーションにより積層視野可変型PETを模擬し、感度特性を評価した結果を示す。模擬したPET装置は24cmの体軸視野を持ち、検出器は7.5mm厚のLSOを4層に積層した。本PET装置は4層の検出器をスライドさせることで96cmまで体軸視野を拡張できる。点線源を視野中心に設置した結果は視野を広げると感度が減少した。一方、180cmの線線源では96cmの体軸視野で最大値を持った。また、円柱ファントムを模擬した結果は60cmでPETのS/Nの指針である雑音透過計数が最大値を示した。積層視野可変型PETの感度特性を評価し、従来と同程度の量のシンチレータで感度を維持したまま体軸視野を拡張できることを示しただけでなく、測定ごとに最適な体軸視野を設定することで感度の向上が見込める事が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体軸視野を拡張可能な多層円筒型PET装置(Axially extendable multiplex cylinder PET: AEMC-PET)を考案し、モンテカルロ・シミュレーションを元にその有用性を示した。得られた結果からAEMC-PETは視野を拡張するだけでなく、測定ごとに最適な体軸視野を設定することで感度の向上が見込める事が分かった。なお、本シミュレーションによる結果は ・2012 IEEE Nuc. Sci. Sympo. & Med. Imag. Conf. ・2013 第105回日本医学物理学会学術大会 で発表を行った。IEEEでは口頭発表に選ばれ、医学物理学会では大会長賞を受賞することができた。 本年度は検出器仕様を決定するため、シミュレーションを先行して実施したが、半導体受光素子であるG-APDは本年度調達した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はシミュレーションによって決めた仕様を元に検出器を試作する。人サイズをターゲットとしたG-APDとシンチレータによる独立型DOI検出器のプロトタイプを開発する。本検出器は積層した検出器を空間的に独立して配置できる点を特徴とする。シンチレータはPETで一般的に利用されるLSO系のシンチレータを用い、サイズは2.9 x 2.9 x 7.5 mm3とする。シンチレータを4 x 4のアレイ上に組み上げて4層積層した場合、3 cm厚の有感領域を確保できる。G-APDは3 cm2の有感領域を持つものを4 x 4のアレイ状に配置して利用する。 多層円筒型PET装置は独自の形状を有しているため、ガントリー設計やデータ収集方法等の更なるシミュレーションを実施する必要がある。また、PETの実効的な感度は計数率に依存する。PETでは単一時間内(4から10 ns)に検出した2本のガンマ線を同時計数と判定するため、計数率が高くなると異なる発生源からの2本のガンマ線を検出する偶発同時計数が増加してノイズ成分が増えてしまう。偶発同時計数によるノイズ成分は装置のダイナミックレンジを制限する。フレキシブルPETにおいては独立型DOI検出器の配置が測定方法毎に異なるため、測定条件によって計数率が大幅に異なることが予想される。モンテカルロ・シミュレーションを用いてそれぞれの測定モードにおける計数率特性を評価する。シミュレーション結果から効率的なデータ収集方法を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は検出器試作のためにシンチレータの購入を行う。シンチレータはPETで一般的に利用されるLSO系のシンチレータとしてLGSOを用い、サイズは2.9 x 2.9 x 7.5 mm3とする。本シンチレータと昨年度購入したG-APDと組み合わせることで試作検出器とする。 また、更に大規模なシミュレーションを実施するため高速計算機の増設を実施する。モンテカルロ・シミュレーションはPET装置をモデル化できる有用なツールであるが、実際のPET計測を模擬しようとすると膨大な時間がかかる。しかしながらポジトロンの対消滅はそれぞれが独立事象であるため並列化することで計算効率を向上することができる。 また、学会発表、研究調査等に旅費を計上する。
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