研究課題/領域番号 |
24602002
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石丸 香苗 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (00572471)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ブラジル / アマゾン / 貧困 / 森林利用 / アグロフォレストリー / 教育機会 |
研究概要 |
本研究は森林に侵入した土地なし農民がどのような農業生産を行い,その生産によって次世代がどのように影響を受けるか,また森林バイオマスの増減にどう影響するかを明らかにすることを目標としている。定着後の期間が異なる二つの隣接したコロニーにおいて,農業生産と次世代の教育・就業状況についてヒアリングを行った。 農業部門では,栽培作物種と収穫時期について世帯調査を行うとともに,作物選択の動機や販売・自家消費に対する各作物種の重みづけを行った。その結果,重視している作物について,定着後の期間が長いコロニーでは販売で重視している作物は市場価値の高い数種の作物に集中したのに対して,定着後の期間が短いコロニーでは比較的多種の作物に分散していた。また,定着後の期間が短いコロニーにおいて,作物種のバリエーションが少なく販売収入がない世帯は自家消費用の作物も不足していた一方,販売収入がない世帯でも栽培種のバリエーションの高い世帯は自家消費用の作物を十分に収穫していた。 教育部門は,各世帯の成人と子どもの就学状況の変化を調査した。成人に関しては,子どもの頃の就学時状況および現在の夜間コースの就学状況をヒアリングを行った。その結果,定着後の期間が短いコロニーに多くの就学者がいることが明らかとなった。個々の定住者の就学を可能とする背景としては,土地を獲得し,農業を営むことができるようになったことにより時間的余裕が生まれたことや,識字や計算の必要性を認識するようになったという事例を確認している。つまり,土地の獲得が,生活方式や意識に変化を与え,それが教育レベルの向上につながっている可能性が確認できた。また,子どもの就学状況に関しては保護者にヒアリングを行っている。その結果,全ての子どもが近隣の公立学校に就学しており,さらに生活環境の変化によって学校を変えていることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同研究者予定であった研究者が資格を失い参画できなくなったため,森林バイオマスの推定を担当する代替研究者の選定が遅れたことにより,森林バイオマス推定部門の進捗具合が予定より遅延している。 しかし,農業部門と教育部門は予定通り調査を行い順調に進行しているため,全体ではやや遅れているを選んだ。農業部門では各世帯の栽培植物種の消費と販売量の把握,各作物種の収穫時期と結実年数を調べ,その作物選択にどのような意思決定が働らいているかについてヒアリング調査を行った。農業部門の進捗状況は100%である。 教育部門は,各世帯の成人および子どもの就学状況を調査した。成人に関しては子どもの頃の就学状況および現在の夜間コースへの就学の有無,子どもに関しては学年,就学している学校とその選択の理由,家庭での学習時間のデータを収集できている。当初の研究予定であった子女の教育状況の把握に加え,成人の教育状況の実態も把握することができていることからも,教育部門の進捗状況は100%であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
定着後の期間が短いコロニーでは長期作物が結実期に入ったため,販売収入・自家消費への影響を与えていることが考えられる。また試行錯誤により栽培作物種の変遷が起こっている可能性も考えられる。これらが家計にどのような影響を与え,コロニー内でどのような格差が生じているのかを把握し,それらが住民の流動性に関与しているか否かについて検討を行う。一方,定着後の期間が長いコロニーでは近年土地を分割売却する現象がみられており,同じく流動性が高い。両コロニーにおける住民の流動性の高さが何によってもたらされるかについて,農作物の販売収入と外部収入のバランスから明らかにしていく。 教育部門では,次年度も引き続き成人および子どもの就学状況を調査し,その変化の把握に努める。それに加え,次年度では学校における土地なし農民の学習状況の調査を行う予定である。学校おける土地なし農民の子どもの学習状況については,校長や教師にヒアリングをおこない,その他の子どもと比較して学習状況に違いがあるかなどの実態を調査する。さらに,子どもの成績表を通して,定着後の期間が長いコロニーと短いコロニーとで,学習達成状況に違いの有無を調査するとともに,各家庭における収入との関連を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度は最終年度であり,研究の総括に必要なデータを収集のための現地調査への海外旅費を予定している。また,成果の発表を精力的に行う段階であり,学会発表への旅費および論文発表のための英文校閲費を想定している。 農業生産についての分野は,主に海外渡航費用を想定している。また,リモートセンシングデータによる森林バイオマスの推移についての分野が遅れているため,特にこの分野に力を入れる予定である。現在の予定ではブラジル宇宙研究所(INPE)が公開している衛星画像データを使用予定であるが,解析の精度を高めるために新たに撮影を行う可能性もある。 教育についての分野も同様に,主に海外渡航費用を想定している。学校調査における校長や教師に対するインタビューの際には,専門用語が多いことから通訳者の雇用を検討している。
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