行政機構の機能が乏しい途上国では、行政の空白状態を埋めるためのシステムを構築しようと住民自身による組織作りを目指し、住民参加、保健衛生、教育など、様々な「社会開発」プログラムが展開されてきているものの、こうした試みも、行政への積極的な参加を促すまでにはなかなか繋がらない。かかる状況の中で、個人と個人、個人と社会をいかなるかたちで繋げながら開発に寄与できるのか。手詰まり状態にも見える一定の開発イシューを前に、世界各地で徐々にスポーツの活用可能性が注目され始め、そうした活動や議論への関心が世界で高まりをみせてきている。つまり、「余暇・娯楽」と「貧困・開発」という相反するように見える二つのフィールドが、スポーツの可能性が期待される時代に、その活用可能性を煽りつつグローバル・イシューとしての開発問題を培って、関心が一挙に高まってきたのである。 そこで本研究では、「開発」の領域と「スポーツ」の領域とが連携し、途上国の発展を支える体制作りへ向け、その底辺を広げる組織的取り組みが始まった時勢の中、スポーツと開発の問題がいかに繋がり始め、スポーツを通じた国際貢献活動がどのように展開されてきているのかについて、とりわけソーシャル・インクルージョンの視点からスポーツ・プログラムの活用可能性について明らかにした。その具体的な研究成果については次の通りとなる。①Sport for Development and Peace(SDP) の主要なアクターとその実践内容についてまとめながら、世界で展開されるSDPの具体的な中身について。②行政ガバナンス的な観点から、自律性を備える「スポーツ・ドメイン」の特徴について。③国連が2005年を「スポーツ・体育国際年」に制定した経緯と、その国際年を契機に世界規模で拡大するSDPの歴史的変遷の位相について。
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