研究課題/領域番号 |
24603003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保 光徳 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60214996)
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研究分担者 |
寺内 文雄 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30261887)
田内 隆利 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70236173)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 民具 / 踏み鋤 / フィールドワーク / 構造解析 / 再現制作 / 形態データベース |
研究概要 |
新潟県津南町歴史民俗資料館所蔵のエングワ(踏み鋤)を中心に,民具を所蔵している各施設・設備管理の協力のもと、周辺地域における類似形態の有無を調査し、各地に現存する踏み鋤の形態調査・観察を実施した。9カ所の資料館・博物館にて35点の踏み鋤の形態観察を確認し,その採取したデータを数量化III類で分析した。その結果、大別して3種類の形態に分類できることを明らかにし、踏み鋤の一種であるエングワの形状特性およびその属性の把握した。さらに現地において木工職人や農具使用者から聞き取り調査を実施し,道具や木材についてのつくり手として必須となる知識の収集・分析を行った。また同時に三次元デジタイザを使用し、エングワの細密な形状データの採取を行った。そして収集した民具形状データに対する修正,加工を行い,その修正形状データに対する構造・機構解析をANSYSInc.のANSYS Ver.12 およびMSC 社製 visual NASTRAN 4D を使用してシミュレーションを実施した。これらの知見をベースとして,エングワ形態の再現制作実験を行った。それに先立ち,津南町現地における材料探索・採取を行うとともに,エングワ上の刃物痕から推測した当時使用したと思われる制作道具の調査・収集を行い,エングワ形態の再現制作を行った。さらに実形態のエングワと制作したエングワ形態の比較を木材の材料特性、力学視点、外形の特徴などにおいて比較・検討、問題点を考察し、今後の再現制作における形態や制作過程における改善点についての考察を行った。再現制作を通し"形態創造における潜在的な知恵"の鱗片を外形からだけではなく、創作過程を通し体感し記録する事でその形態の根底に見え隠れする人とモノとの関係を探るための基礎的知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度における研究実施計画は予定通りに遂行することができた。計画されていた地域での形態調査,情報収集だけでなく,関連する地域,施設での調査,形状測定も実施でき,これらの成果は,2012年6月22日に札幌市立大学芸術の森キャンパスで開催された日本デザイン学会第59回春季研究発表大会にて「エングワ(踏鍬)の断面二次モーメント分布とその力学性」と題して発表するとともに, 同年11月16日に東京農工大学小金井キャンパスで開催された第74回形の科学シンポジウムにおいて「秋田県角館町飾山の形からわかること」と題して発表を実施した。以下に代表的な調査・形状調査例を列挙する。 20120622「道南地域に伝播した踏み鋤の形態調査および収蔵庫見学」北海道開拓記念館 ,20120716-25「津南町を中心とした周辺地域における踏み鋤類似形態調査および再現制作の為の材料採取」戸隠ー津南ー山古志,20120725 「山古志村での踏み鋤の使用状況の確認および牛の田鞍の形態調査」山古志村資料館 旧虫亀小学校保管庫,20121019 民具調査「関東型の踏み鋤の3D測定および形態調査」埼玉県立歴史と民俗の博物館,20121122「エングワの木取り判別/エングワが根曲がりを使用している事の確認を行った」津南町歴史民俗資料館 しかしながら,今年度は計画通りではあったが「研究の目的」に記載した“形態創造における潜在的な知恵”を明らかにするには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的である“形態創造における潜在的な知恵”の解明を目指すために,まず,調査対象の民具形態の探索のため調査対象地域を拡大させながら,前年度同様の調査,収集,解析を継続して行う。探索の結果、指定した対象民具から得られた形状データ, 構造解析や材料特性の分析、フィールドワークによる知見をベースとして造形過程の仮説を立て、それぞれの民具の再現制作を実施、現物との比較を行う。再現制作過程は緻密に記録をとり,制作過程における素材に対する気づき,形態の変化,問題点などについてログファイルとして記録していく。そして調査を行い収集したデータをもとにデータベースの構築を図る。そして,エングワの再現制作において現在までの制作を踏まえ、さらなるエングワ形態の再現制作を行い、よりエングワに近似した木部のエングワ形態の完成を目指す。さらに燕三条の農具の鍛冶屋に協力を要請し、形態から予測できる先端の刃物の形状を推測すると共に、その形状を制作することで、最終的にシミュレーションおよび当時の使用方法の仮説に基づき実際に使用し機構解析との比較等を行う。さらに,再現制作を終えた民具形態については,実形態との比較を行い,そこにある民具技術,力学的特性,民具創造における制作者の生理学的および心理学的な反応,変化について検討を重ね,民具形態が有する意味を解明していく。以下に今後の研究の進め方について列挙する 1.民具形態調査対象の拡充,形態分析の実施 2.民具の再現制作実験の実施と再現された民具による使用シミュレーションの実施 3.公開講座,ワークショップの実施,関連学会での研究報告 4.インターネット上での民具形態に関する情報発信
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次年度の研究費の使用計画 |
形態測定時に使用するインスタントカメラのフィルム代として使用する。
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