研究実績の概要 |
本研究の目的は、俳優の演技における発話構造を、特に「自発的ジェスチャー(Kendon, 1986, 2004; McNeill, 1987, 2005)」を中心に探索し、芸術表現における「発話―身ぶり」システムの一端を解明し、「身体的コミュニケーションデザイン」の一つの形を提示することにあった。そこで本研究では、発話行為を形作るプロである俳優が戯曲をどのように身体化するのか、を特に自発的ジェスチャーを中心に探索することを目的に、一人芝居の制作実験をおこなった。 具体的には、10年以上のキャリアを持つ2名のプロの俳優に戯曲を基に演技を組み立てるよう依頼した。2名とも1日4時間×10日間の稽古期間を設け、11日目に「本番」という形で観客の前で演技の発表をおこなった。なお、実験5日目・10日目に2~4名の見学者を稽古場に入れた。俳優は実験日まで演目名や内容等はいっさい知らされず、実験初日に初めて戯曲を眼にした。俳優には「稽古日誌」を記録するように依頼し、同時に稽古場および本番では実験者が「フィールド・ノート」に俳優の動き、発言等を記録した。また、稽古場および本番会場では、4台のカメラ(正面・上手・下手・背面)を設置し、その一部始終を記録した。 以上の記録を発話、ジェスチャー、視線、体幹の変化から分析した結果、以下の考察を得た。プロの俳優は戯曲を身体化させていく経過で、初期は「ことば」「環境」「身体」といった3つの側面に分けてアプローチしている。どのアプローチ方法に比重を置いて制作するかによって本番公演での演技の特性ないし、観客を含めた環境の使用方法に大きな異なりが生まれる。視線・姿勢・ジェスチャーといった位相変化の数および同期が演技の「質」を示す可能性があること,特に演技による「不在の(他者を含む)環境」の発現は,それら3つの位相変化のタイミングの影響を受ける。
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