本年度は、これまでのまとめにあたる研究として、Herbert Bayerのアトラス『World Geo-graphic Atlas』(1953)を中心に調査と考察を行った。最終年度であったが、2015年10月にニューヨーク近代美術館所蔵の関連資料が利用可能となったことから、同館アーカイブを再訪し調査を行った。この調査に加えてこれまでに収集した関連アトラス、ならびに1930年代以降の地図デザインに関するこれまでに得られた知見をふまえて、Bayerのアトラスのデザインの総合的な分析を行った。 Bayerのアトラスを取り上げる理由は、従来このアトラスは情報デザインの名作として広く知られているものの、その具体的なデザイン、内容についての考察は十分ではなく、地図、アトラスに関する歴史的位置づけも曖昧であったことにある。本研究はBayerのアトラスの起源となる1936 年に製作されたコンテナー・コーポレーション・オブ・アメリカ社(CCA)のアトラスとの比較、およびアトラスに掲載されている地図をはじめとする図版の探索と特定できた参照元の図像との比較検討をそれぞれ実施した。 その結果、米国の地図に関する項目においては、米国の各州の地形、風土などの表現に重点を置いた36年のアトラスの基本構成を受け継ぎつつも、グローバルな世界地図の項目においては、Richard Edes Harrison、Erwin Raisz、Buckminster Fuller、Ssamuel W. Boggsらのアトラスや図版を多く参照していることを明らかにした。特にRaiszのアトラスについては、その考え方も含め全体を参照した可能性があり、Bayerのアトラスもまた「航空時代」に展開した地図デザインを継承する所産であったとする仮説を提示した。
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