研究課題/領域番号 |
24603022
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
嶋津 恵子 慶應義塾大学, 先導研究センター(日吉), 特任准教授 (70424215)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | システムデザイン / 要求工学 / フィールドワーク / フィールド情報学 |
研究概要 |
本研究は、人(特に患者を中心とした弱者)の快適性を重要な要素として取り扱うという、新たなデザイン手法の実現を目指している。このため、複数の専門分野をまたがる要素を融合させることを目指し、統合工学に基礎を置くシステム・エンジニアリングを利用した。統合工学を基盤にしたシステム・エンジニアリングの基本の2つのモデルは、システム・ライフサイクル・モデルとVモデルである。平成24年度は、現在の病院建築デザイン手法が、これらのモデルに照らすとどのような実態になっているかを調査し、現状の病院建築デザインモデルを作成した。また、これと並行し、人の快適な動きに必要な要素を整理した。その方法として、従来デザインで建築された病院の利用者が、動線や待機状態に対しどのような不快適さをもっているかを調査した。想定した利用者は、特に患者を中心とした弱者である。病院現場観察により、実在の病院における人の往来を記録し、各個人の動線を追うことで患者の動向をデータ化した。 システム・エンジニアリングを、複雑な問題の解決や大規模なシステムやプロダクト製造に応用し有用性を確認した報告は多く存在する。一方、建築物に適応したものはダムなどに限定され、特に患者やハンディキャップのある非健常者の快適性を考慮した建造物デザインへの適用報告はほとんど例がない。この状況に対し、本研究が狙いとする、人の動きを重要な属性情報として考慮している点は、システム・エンジニアリングの応用研究の視点でも、病院建築デザイン手法開発の視点でも学術的特色となる。本研究を通して、システム・エンジニアリングを特定の業界や目的に展開する方法や手順が明らかになる。其々の分野で先端技術を持つ日本の産業界に、統合工学が導入されやすくなり、世界を席巻するプロダクトを創造するトリガーに成り得るという大きな意義をもつ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画を上回る数の患者動向データを収集できたことにより、平成25年度中に作成するモデルの信頼性が大幅に向上すると見込めるためである。 平成24年度は当初の計画通り、従来の病院における人の移動をモデル化するにあたり、病院における患者動向の観察を実施した。実在する病院内の人の往来を5日間にわたりビデオ録画し、記録した動画からすべての患者の動向を人手で書き起こす作業を行った。これらを基に、病院内患者動向モデルを作成した。総外来患者数の当初見込みは約400人であったが、実際には800人以上に上った。この書き起こしデータを基に、計画案にある、従来の建築デザイン手法による病院内での患者動向把握は平成24年度中に完了させた。そのため、平成25年度以降に病院建築デザイン専用のVモデルを実展開することが可能となった。平成26年度には、病院専用の建築デザインモデルを新たに建築する病院に利用する。さらに建築シンポジウム等で成果を展示発表することで、産業界への貢献を目指す。 本研究の目的は、病院を「箱」としてではなく人が快適に動く「場」としてデザインする手法を、システム・エンジニアリングの応用で開発することである。システム・エンジニアリングで最も重要とされているモデルは、システム・ライフサイクル・モデルとVモデルである。統合工学を基盤にするシステム・エンジニアリングで成功を収めている産業界や企業では、これらの2つのモデルを雛形にした専用モデルを開発し、利用している。本計画では、研究期間内に病院建築デザイン用のこれら2つのモデルを開発し、それらの有用性を明らかにすることを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、当初の計画を上回る数の患者動向データを収集できたことにより、平成25年度中に作成する建築デザイン用のモデルの精度の大幅な向上が見込める。従来の構造的安全性を確保し、かつ人の快適な移動と待機を実現する病院建築デザイン手法を開発する。具体的には、病院建築専用のシステム・ライフサイクル・モデルとVモデルの作成である。本研究では、人の快適な移動と構造上の安全性とのトレードオフについて、シミュレーションを実施し、汎用性と実用性のあるVモデルを開発する。病院建築デザインモデルを利用した病院における人の移動や待機の快適性については、シミュレーション環境で確認する。完成した愛知県内の特定の病院の実態とシミュレーション結果の比較を繰り返し行い、開発した手法の汎用性を高める。シミュレーションごとの比較に留める予定であったが、平成24年度観察対象の患者が増加したことで、実際の病院建築に反映させる。 平成26年度は、患者の動線や待機時の困難性を事前に考慮することにより、「箱」としてではなく人が快適に動く「場」としての病院デザインを実現する手法を実際に建築に用いる。開発した病院建築デザイン手法を新たな別の病院に実展開し、建築シンポジウム等において成果を展示発表する。 なお、本研究は研究協力者が所属している大成建設(株)の協力により進めるものであり、同社の同意を得た上で研究計画を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度請求額の一部を平成25年度分として繰り越すこととした。なお、平成25年度分として請求した金額と合わせ、平成24年度中に出席した国際会議の参加費として支出する。 また平成25年度の使用計画は、交付申請書のとおりである。旅費については、出張費として確保したく計上した。国内研究会および国際会議での発表は、研究成果を広く知らしめるために必要であると考える。人件費については、アルバイト作業者による、病院建築デザインモデルを利用したシミュレーション作業が発生する。また、本研究のテーマは日本の業界内で初めての試みである。事前の調査において、シミュレーションパッケージソフトの単純利用では実現できず、ソースコードの編集作業が発生することが判明している。そこで、シミュレーション用ソフトウェアカスタマイズ作業を計上した。
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