本研究の目的は、書物の読み方及び作者の意図する表現を中心に据え、物理的制約にとらわれない電子書籍時代のタイポグラフィ技法を模索することにある。そのために、1.コンテンツレイアウト手法、2.コンテンツ記述手法と処理系、3.インタラクション手法、の3項目について、平成26年度は下記の研究開発を行った。 1.コンテンツレイアウト手法については、前年度に実装した複数行のスクロールビューアを試用し改良した。このビューアは読解時のコンテキストを与えるために読解中の段落の前後の段落も同時に表示するが、すべての段落がスクロールできてしまうと混乱するので中央に限定する一方で、他の段落は表示位置を「ピン留め」できるようにした。また、読解中の段落の移行が理解しやすいようにアニメーション効果をつけた。更に、段落を手動で移行できるようにした。 2.コンテンツ記述手法と処理系については、スクロール方法を制御するコンテンツ記述手法を検討し、スクロールビューアに反映した。通常の静止する表示でもそのまま扱うことができ、コンテンツ制作者が手動でも記述しやすい方法として空白量でスクロール速度を制御する方法を考案した。 3.インタラクション手法については、開発したビューアを様々な装置で試用した。前年度の調査結果を元に文字間隔や分かち書きの間隔の設定、一行の文字数の初期値を決め、PC以外に幾つかの画面サイズのスレート型端末、ヘッドマウントディスプレイなどで試用した。スレート型端末については、小画面では表示行数が少なく能動的操作が少ない方が適切で、大画面では提案する表示方式のメリットが薄れる結果となった。ヘッドマウントディスプレイでは文字列方向のスクロールはあまり好まれなかった。
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