研究実績の概要 |
世界遺産として2004年に登録された紀伊山地の霊場と参詣道は, その文化的景観が高く評価されており,これを取り巻く周辺環境は広範囲にわたっている。線形状の世界遺産として2例目であるこの対象地区では,開発規制地域としてのバッファー・ゾーンは参詣道の両側一律50mで設定されているが,その根拠は明確とはいえない。本研究では,このような世界遺産をはじめとする様々な保全地区や施設におけるバッファー・ゾーンの設定に際して,これを補助するための方法の提案を目的としている。 ここではまず,GISを3次元的に用いて地形をはじめ樹種や樹形,道路等の構造物の物理量や,文化財の位置,植生等のデータを収集した。また,現地においてレーザー測量と写真測量を用いて森林内の植生をもとに可視領域を求めるための基礎的な情報を収集するとともに,幹線道路からの音や匂いについても音量測定やニオイセンサによる調査を行い,モデル作成のための基礎となるデータを得た。 これらから得た指標値と,調査結果をもとにしたデータベースにもとづいて,バッファー・ゾーンの設定を試行した。まず,モデル関数として森林内を視線が透過する距離について,幹の部分と樹冠部分,さらに中景・遠景を考慮して森林全体について,それぞれ距離と透過率の関係を見出した。次いでこれを地形と合わせ,参詣道からの見え方を表現した。これをもとに,森林を通して透けて見ることができる部分,森林を通さずに見ることができる領域を取り出し,その見え方を表現することでバッファー・ゾーン設定のためのモデルを作成した。音と匂いについては,空気中は既往研究をもとに,森林内は調査をもとに限界値を統計的に定める方法によって3次元の距離を算出した。以上の方法により,地形や植生による対象地区からの距離と視覚,嗅覚および聴覚との関係をもとにしたバッファー・ゾーンの設定のためのモデルを提案した。
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