研究課題/領域番号 |
24604001
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
原田 伊知郎 東京工業大学, 生命理工学研究科, 講師 (00361759)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | メカノトランスダクション / 細胞外マトリクス / 細胞接着 |
研究概要 |
本研究の目的は組織硬化をともなう疾患として、癌組織の悪性化や心リモデリングなど周辺環境の物性変化に細胞が応答して長期にわたり機能が変化していくメカノトランスダクションの解明を目指すものである。機械的刺激に一過的に応答する分子機構の存在が示されつつあるなか、何故その応答性が長期にわたり徐々に細胞の分化やフェノタイプを誘導するのかという問題は不明である。本研究では足場物性に依存した長期的なシグナルプロファイル変化を解析することで、細胞と足場との力学的相互作用が引き起こす細胞機能変化の幾序を明らかにするとともに、組織の硬化が関与する疾患との関連性について考察を行った。 本年度では、これまでの得られた細胞の足場物性の違いに伴い、接着斑に局在化する分子のターンオーバーの変化が様々な細胞種類においてどのような違いがあるかについて検討を行ってきた。すなわち、接着足場ECMが柔らかい基板上において観察されてきた接着斑分子の緩やかな分解に伴う、それらの断片が残留する現象が細胞種によってどのような違いとして検出されるのかについて検討を行ってきた。その結果、足場が柔らかいときに見られる断片化した接着斑分子の残留は、成体、新生児、胎児等の初代マウス細胞においていずれのステージにおいても線維芽細胞に良く観察されたことから、細胞外マトリクスが豊富な組織に含まれる間葉系細胞において顕著であることが分かった。特に、組織から直接タンパク質を抽出して確認を行ったところ、接着斑分子の断片化産物は、未熟な組織、修復中の組織においてよく観察されることから、組織の物性がリモデリングを受けている組織との相関が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は基盤技術を確立することを目的に、まず従来のアクリルアミド培養用ゲルの改良を行ってきた。この培養基板とはアクリルアミドゲルに少量のカルボキシル基側鎖の共重合を施した新しいタイプのアクリルアミドゲルであり、イメージングやタンパク質解析が可能であることを実証した。従って、本研究計画通り、基盤技術の確立は達成できたといえる。本培養基板は大量生産が容易であることから、これを用いることでゲル上に培養し続けた初代細胞・ライン化細胞の長期シグナルプロファイルをウエスタンブロッティング等において解析することが可能になった。 現在まで、細胞の接着点にかかる力に依存して機能的な部分断片化するタンパク質として数種の物が明らかにされている。それらは全て酵素活性を持たないアダプタータンパク質であり、断片化したものは接着点に局在しつつ、接着点ターンオーバーと細胞の走化性ダイナミクスに影響することも明らかになりつつある。Talinの断片化については海外の研究者によってすでに報告されているが、接着点に残された他のタンパク質の断片の機能については明らかにされていない。そこで、本研究では、特にこれら未解明の断片化したアダプタータンパク質の局在性に左右されるシグナルカスケードを中心に解析を行うことを目的に、断片化が報告されている各種接着斑タンパク質の断片ドメインを細胞へ導入して、接着斑形成のターンオーバー等について調べる予定であった。しかし、外来遺伝子として全てのものが発現するわけではなく、細胞毒性の高い断片タンパクも含まれていたことから、その原因の解明について分析に多くの時間を要し、イメージング解析には至らなかった。ただし、接着斑ダイナミクスに著しく寄与する断片化フラグメントについて数種のタンパク質の絞り込みができたため、来年度以降はそれらを導入した細胞について計測を進めて行く。
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今後の研究の推進方策 |
25年度の早い段階にて、「接着ターンオーバーに寄与する分子の断片化」と、その後に「生じるシグナルプロファイルの変更」との相関性を見出し、それら二つの現象に同時関与する分子の絞り込みを行う。これにより、接着ターンオーバーと細胞機能に関与する分子・シグナルカスケードとの関連性を具体化する。 さらに、25年度からは何故シャーレ上に培養された細胞では分子の断片化が検出されにくいのに対し、弾性体基盤上に培養した細胞では良く検出されるのか、そのメカニズムに迫ることによって、細胞が足場の物性を認識する具体的な反応機構についても解析していく。試験管実験では、接着斑タンパクの断片化としてカルパインの活性化によるものであることが分かっている。カルパインはカルシウムに依存することが明らかにされているが、細胞内での活性化はカルシウム濃度上昇との関係は不明である。本研究の後半では、足場に対する接着機構におけるカルパインの活性化機構について局所的なカルシウム濃度上昇についても検討することにより、具体的な組織硬化から生じる細胞の足場物性認識メカニズムまでの幾序について考察する。 具体的な実験として対象とするものは、開始時点においてはプロファイルが明確なライン化された癌細胞を用いる予定であったが、初年度において初代間葉系細胞において顕著な断片化分子の残留が検出されたため、25年度以降は組織の硬化現象に着目した組織のリモデリングと足場依存的な長期プロファイル変更について解析を行う。25年度からは特に組織硬化を伴う組織として、心筋梗塞・肝硬変などの病態マウスの組織解析や、過剰運動、運動疾患モデルマウスの筋組織についても検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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