本研究の目的は、癌組織の悪性化や心リモデリングのような組織硬化をともなう疾患に対して、周辺環境の物性変化に細胞が応答し、その感受性が長期にわたり徐々に機能変化を生じてしまうメカノトランスダクションの解明を目指すものである。機械的な刺激に一過的に応答する分子機構の存在は示されつつあるが、何故その短期的な応答性が長期にわたり徐々に細胞の性質変化を誘導するのかという問題は不明である。本研究では足場物性に依存した長期的なシグナルプロファイルの変化を解析することで、細胞と足場との力学的相互作用が引き起こす細胞機能変 化の幾序を明らかにするとともに、組織の硬化が関与する疾患との関連性について考察を行うものである。 これまでに、細胞の足場物性の違いは細胞の接着斑に局在化する分子のターンオーバーの変化が様々な細胞種類においてどのよう異なるのか検討を行ってきた。その結果、足場が柔らかいときに見られる断片化した接着斑分子の残留物は、初代マウス細胞においても確認され、細胞外マトリクスが豊富な組織に含まれる間葉系細胞において顕著であることが分かった。特に胎児や新生児マウス組織では成体より顕著であることから、組織のリモデリングが活発な場合において接着斑分子の発言プロファイルが変更を受けることが分かった。また、マウスの下肢不動化モデルを用いてアキレス腱等の肥大・硬化部位について検証を行ったところ、培養細胞と同様の結果が得られた。
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