本年度の研究成果としては、テーマである「遺伝子組換え作物をめぐる知的財産権と種子の再利用」について、これまでの判例研究に基づく法的責任に関する考察に加え、今日注目を集める社会的責任の視点へと研究の視野を拡大したことにある。これまでの判例研究から、遺伝子組換え作物に対する特許保護の所有企業は、その使用者ばかりでなく、当該種子が自生した農家に対しても遺伝子組み換え種子の再利用をめぐって裁判を繰り返してきた。種子の再利用は、特に小規模農家を中心として伝統的に行われてきたいわば慣行である。また、遺伝子組換え作物に対する特許保護の適用範囲が、組換え遺伝子が有する特殊な機能に限定されるのか、あるいは植物全体に及ぶのかという論争がある。今年度行った判例研究では、遺伝子組換え作物に対する特許保護は、機械本体と部品の関係同様に、植物全体に及ぶという判決が主流であることを明らかにした。 また、遺伝子組換え作物が自生した農家が逆に特許所有者の企業やそれを栽培する近隣農家を訴える判例が増加していることに着目した。特に、それが自生した農家が有機作物栽培農家であった場合、有機作物としての規格を失ったとして賠償請求が問われるのかが当該裁判の争点となっている。この遺伝子汚染をめぐる判決においても、企業側が勝訴し、遺伝子組換え作物栽培農家には責任が問われない判例が主流となっている。 そこで今年度の本研究では、上記のような動向を踏まえ、遺伝子組換え作物の開発者や使用者がたとえ法的責任を免れたとしても、その社会的責任は残るという仮説を建て、研究を進めた。今年度の研究の成果として、遺伝子組換え作物に対して特許権を有する企業の中でも、特許保護をめぐって法律上の係争に終始する企業もあれば、小規模農家にも使用できる安価な種子の開発を小規模農家自身の参加により行う企業もみられるようになってきたことを明らかにした。
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