固相抽出やクロマトグラフィーにおける溶質の保持・分離にとって大きな役割を果たさないと考えられていた弱い分子間相互作用、例えば分散力や双極子モーメントを利用することで、溶質の選択的捕捉に関する検討を試みた。選択性は分離剤官能基と溶質間に複数の相互作用が同時に発現されることで生じる、と考えれば両者の間には近接関係が不可欠となる。すなわち吸着現象である。官能基・溶質の分子間距離の接近は、弱い相互作用といえども無視できなくなる。また、溶液中での吸脱着平衡では官能基、溶質とも溶媒和を受けた三体間現象であり、溶媒和に強い相互作用が関与する限り、その相互作用は溶質の吸着には影響を及ぼさず、ますます弱い相互作用の役割が重要となる。そこで、ハロゲン置換基を有するフェノキシ官能基を導入した吸着剤を合成・評価したところ、官能基の持つ配向双極子性が近接した溶質に誘起双極子を誘導し、大きなモル屈折率を有する溶質に対する選択的吸着を示すことを見出した。更に、双極子モーメントの大きなp-ニトロやp-シアノフェノキシ基を導入することで、この傾向は顕著になり、双極子-双極子による極めて選択性の高い保持特性を得ることに成功した。これら吸着剤は、食品や臨床分析において有効に機能することを証明した。
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