本研究は、移植医療に用いられる多能性幹細胞由来組織の腫瘍化をいかに低減するかを提示するものである。これまで、片親由来の単為発生胚由来ES(PgES)細胞は、正常胚由来ES 細胞に比べて、分化させて移植した後の腫瘍形成頻度が劇的に低下することが分かってきた(投稿準備中)。一方、PgES 細胞の中にも、高い腫瘍形成を示す細胞株が見られる場合がある。この腫瘍形成頻度の違いは、インプリント遺伝子のDNA メチル化状態と発現量の違いによると考えられる。個々のインプリント遺伝子の発現を制御することで、どの遺伝子が多能性幹細胞の腫瘍化に関与するのか明らかにし、移植医療に利用できる多能性幹細胞を開発することを最終目的とする。 様々なインプリント遺伝子のメチル化と発現を調べたところ、本来腫瘍形成しにくいPgES細胞でもSnrpn遺伝子の発現異常が生じている細胞株では腫瘍形成しやすいことが明らかとなった。Snrpn遺伝子は母方アレルでメチル化され、父方アレルで発現することが知られている。よって卵子由来のPgES細胞では本来はSnrpn遺伝子はメチル化され、発現がほとんどない。しかし、高腫瘍形成株となったPgES細胞では、すべてにおいてこのSrnpn遺伝子の低メチル化および発現上昇が確認された。そこで、最近開発されたCRISPR/Cas法によりSnrpn遺伝子を破壊したES細胞株を用いて増殖能および腫瘍形成能を調べたところ、いずれも野生型と比べ低値を示した。 以上より、我々は移植したES細胞由来組織が腫瘍形成する原因の1つとしてSnrpn遺伝子の発現が原因であることを突き止めた。Snrpn遺伝子の発現を抑制することにより、移植しても腫瘍形成しにくい多能性幹細胞を得られるかもしれない。
|