本研究では、マウス細胞初期化過程における関連遺伝子領域とその遺伝子産物がどのようなゲノム動態・空間配置を示すのかを明らかにし、エピジェネティクス制御の仕組みを遺伝子ポジショニングの視点から探ることを目指している。昨年度までに、マウスiPS細胞形成過程に関連するOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanogの各遺伝子領域(17B1、3A3、4B3、15D1、6F2)に由来するBACクローンDNAを選定し、それぞれの遺伝子が存在する染色体テリトリー領域(17、3、4、15、6番染色体)のペインティングプローブと組み合わせたプローブの開発は完了している。本年度は、これらをプローブとしてマウス卵細胞や初期胚を対象とした3D-FISH法によるFISHシグナルの検出を試みた。マウス受精卵や初期胚は、核サイズが通常の培養細胞の数倍に達するため、従来の3次元構造を維持した細胞核標本調整方法では、細胞の脱落、剥離が生じてしまう。そこで卵や胚を対象としたプロトコールの改良を行い、シングルセルレベルでの観察が可能な手技的な開発を行った。しかしながら、良好なFISHシグナルの検出が達成できておらず、引き続き検討を要する状況にある。マウス未受精卵、マウス受精卵(受精直後)、2細胞期、4細胞期、8細胞期、モルラー細胞期の各サンプルについての細胞核標本はすでに揃っており、今後、より良好なシグナルを得るための手技的な開発をベースとして進め、細胞初期化に伴うゲノム動態・遺伝子空間配置の特性を明らかにしていく。
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