研究課題/領域番号 |
24613004
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
多田 政子 鳥取大学, 染色体工学研究センター, 教授 (10524910)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / 5-ヒドロキシメチル化 / ES細胞 / ヘテロクロマチン / ユークロマチン / リプログラミング |
研究概要 |
1. 研究実施内容: 哺乳類の胚発生過程では、ゲノム全体のDNAシトシンのメチル化(5mC)やヒストン修飾が劇的に消去される時期が2回あり、リプログラミングと呼ばれる。この5mCの消去は、5mCを酸化するTet酵素により5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)変換されることに起因する。しかし、5hmC変換領域の制御や5hmCがシトシンに戻る機構など全容は不明である。そこで我々は、マウスES細胞で5mCから5hmCの変換制御機構を解析した。ネガティブコントロールとして3種のDNAメチル化酵素(Dnmt)を欠損し5mCを持たないES細胞を用い、DNAドットブロットによる5mCと5hmC量解析、定量性RT-PCRによるTet発現解析、各種抗体を用いた染色体上の5hmC変換領域の同定を行った。 2. 結果:マウスES細胞では、遺伝子活性の高いユークロマチン領域(ヒストンH3K4me2/3陽性、R-band、S期早期複製領域)で5mCから5hmCへの変換が起きていた。一方、ヘテロクロマチン領域(ヒストンH3K9me3、G-band、S期中から後期複製領域)では、5hmC変換が起きず5mCが維持されていた。 3. 意義:1) マウスES細胞では、Dnmtによる5mC化とTetによる5hmCへの連続変換が常におき、一定のメチル化パターンを維持していることを明らかにした。 2)ヘテロクロマチン領域にTet酵素が働けないよう制限されることで、5hmCのユークロマチン局在性が制御されている可能性を示した(Kubiura, M et al., 2012論文発表)。 4. 重要性:これまで不活性型ヒストン修飾酵素とDnmtが協調的に作用し5mC領域を積極的に制御していると考えられてきた。我々の結果は、ES細胞の5mCパターンは、5hmC非変換領域として間接的に制御されていることを示した革新的なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の実験計画・方法の概要で、以下の研究項目を掲げている:① 始原生殖細胞由来EG細胞を用いて脱メチル化機構を明らかにする;② インプリント消去に関わる初期化因子を同定する;③ EG細胞/ES細胞/Dnmt TKO ES細胞(5mCのないES細胞)を比較し、5hmC化、Dnmts活性制御、塩基除去修復等の関与を検討する。 H24年度は、③の解析をほぼ修了し、論文発表をした。分裂能の高い未分化細胞では、a)5mCから5hmCへの早い変換、b)細胞分裂による5mCおよび5hmCの稀釈、c)新たな5mC化が連続して起きている。このa)b)c)のプロセスを細胞周期を介して正確に制御することで、一定のDNA修飾の状態を保っていることを可視化した。 現在、EG細胞を用い、生殖細胞型のリプログラミングを招く5mCの制御機構を解析中である。EG細胞は、ES細胞より脱メチル化領域を更に拡大しているにも関わらず、ES細胞と同等の5hmC量が含まれていることを明らかにした。よって、EG細胞にはDnmt活性を抑制しメチル化レベルを低くする機構が存在する可能性がある。または、EG細胞が5mCもしくは5hmCを積極的に除去する機構をもつ可能性もある。前者に関して、3種類あるDnmt遺伝子(Dnmt1, Dnmt3a, Dnmt3b)のいずれが関与しているのかそれらを欠損しているES細胞を用いて解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
我々はES細胞を免疫染色によって染色体レベルで解析し、5mCから 5hmCへの変換が起きると5hmCは細胞分裂によって稀釈され、次の細胞周期で再び5mC化されることを示してきた。このエビデンスを別の角度から証明するため、細胞周期を介した5mCと5hmCの変動量を生化学的に解析する。また、始原生殖細胞でのリプログラミング過程では、それまで5mCが維持されてきた動原体近傍もまた、5hmC化の対象となって消去されることが今年報告された。この5hmC化領域の拡大は、始原生殖細胞のクロマチン構造がオープンになりTet酵素が作用できるようになった結果であると予想される。よって、本年度は、これら2項に関して次の材料と方法で解析する。 1. de novo DNAメチル化時期の特定: (材料)ES細胞、Dnmt3a/3b KO ES細胞(DKO)、 Dnmt1 KO ES細胞、Dnmt1/3a/3b KO ES細胞(TKO);(方法) FACSによって細胞周期を約3つに区分する。5mCと5hmC量を生化学的に定量解析と免疫染色により5mCレベルの高い細胞周期を特定する。 2. 始原生殖細胞でのリプログラミング機構解析: (材料)ES細胞;(方法) 始原生殖細胞では、動原体近傍の5mCから5hmCへの変換がみられる。 我々は、あるES細胞をin vitroで始原生殖細胞方向に分化誘導すると、これまで見られなかった動原体近傍の5hmC化がおきることを見いだした。H24年度の成果から、動原体近傍の不活性型クロマチン修飾H3K9me3が、5hmC変換を阻害していると考えている。よって、このin vitro系を用いて、分化過程でのヒストン修飾の変化と5hmC変換量の増加を免疫染色と生化学的定量解析の両方で進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度末に学会参加旅費を必要としていたため、不足が生じないよう余裕をもった予算配分をおこなった。その為、次年度繰り越し金が生じた。本年度、5mCおよび5hmC量の生化学的解析を大阪大学との共同研究で進める予定であるが、その旅費は初年度予想額に含まれていないため、繰越金は主に旅費に加算する。 細胞周期によるDNA修飾の変動に関してはこれまで注目されてこなかった。更に、特に5hmCに関しては皆無であることから、新たな発見が期待できる。よって、細胞周期を同定した細胞の回収が必要であるが、高額なFACSの利用料を必要とする。また、ビーズによる5mC DNA断片の沈降など抗体関連の試薬も高額である。更に、ES細胞培養および分化誘導に用いるサイトカインおよび増殖因子等も高額である。よって、次年度の研究費の大半は生化学試薬と培養試薬に充てられる。
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