研究課題/領域番号 |
24613005
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鵜木 元香 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (30525374)
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キーワード | 初期発生 / エピジェネティクス / DNAメチル化 / ヒストン修飾 / UHRF1 / インプリンティング / リプログラミング / ノックアウトマウス |
研究概要 |
DNAメチル化は始原生殖細胞でリセットされ、成長期卵子においてDnmt3a/Dnmt3L複合体により性特異的なメチル化パターンが形成される。受精後、そのメチル化パターンはインプリンティング領域など一部の領域を除いて再びリセットされ、その後分化に伴い細胞系列特異的なメチル化パターンがDnmt3aおよびDnmt3bによって確立され、Dnmt1/Uhrf1複合体によって維持される。Uhrf1コンベンショナルノックアウトマウス胚は胎生10.5日頃に致死となるため、成長期卵子および初期胚におけるUhrf1のインプリンティングの確立および維持に果たす役割については調べられていなかった。そこで卵子特異的Uhrf1コンディショナルノックアウトマウス(♀)を作製し、野生型(♂)と交配したところ、母性Uhrf1ノックアウトマウス胚は胚盤胞期前後に致死となることがわかった。これは、母性Dnmt1ノックアウトマウス胚よりも重篤な表現型であり、Uhrf1がDnmt1の補助因子としての役割以外に重要な生理的機能を持つことを示唆している。この研究計画を書いた当初はUhrf1のインプリンティングに与える影響を調べることが第一目的であったが、予想以上に重篤な表現型であったため、Uhrf1が初期発生に与える影響の原因をインプリンティングに留まらず広範に調べることにした。Uhrf1ノックアウト卵子および母由来Uhrf1ノックアウトマウス初期胚の各種ヒストン修飾の免疫染色をおこなったが、顕著な異常は認められなかった。現在、完全成長卵子(FGO)の全ゲノムメチル化解析をおこなっているところで、プレリミナリーな結果だが、Uhrf1ノックアウト卵子では野生型卵子と比較してグローバルなメチル化も母由来にメチル化されるインプリンティング制御領域のメチル化も、10%程度低下しているという結果が得られている。このメチル化の低下は、in vivoでUhrf1がde novoメチル化に補助的な役割を果たしている可能性を示す初めてのデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は平成24年度に作製した卵子特異的Uhrf1ノックアウトマウスを用い、Uhrf1 ノックアウト卵子と野生型の精子を受精させて得られた胚が胚盤胞期前後で胎生致死となることの原因を探った。なおこのシビアな表現型はインプリンティング領域のDNAメチル化異常だけでは説明がつかないものなので、インプリンティングの異常に着目しつつも、その他の要因も視野に入れて研究を進めている。Uhrf1ノックアウト完全成長卵子 (FGO)は肉眼的には正常に見えるが、受精後早期に現れる発生異常の原因がFGOに既に蓄積されているのではないかと考え、FGOのヒストン修飾の状態とDNAメチル化の状態を調べている。これまでに各種ヒストン修飾抗体を用いてFGOの免疫染色をおこなったが、調べたヒストン修飾には顕著な異常は見つからなかった。現在、FGOのDNAメチル化について全ゲノムメチル化解析をおこなっている。プレリミナリーなデータだが、Uhrf1ノックアウト卵子では野生型卵子と比較してグローバルなメチル化も母由来にメチル化されるインプリンティング制御領域(ICR)のメチル化も10%程度低下していた。このメチル化の低下は、Uhrf1がDnmt3a/Dnmt3Lによるde novoメチル化に補助的な役割を果たしていることを示唆しており、in vivoでUhrf1が維持メチル化ばかりではなく、de novoメチル化に関与することを示した初めての知見となる。ただし、この結果からだけでは母由来Uhrf1コンディショナルノックアウトマウスが早期に胎生致死になるシビアな表現型の説明はつかず、根本的な原因をさらに追求している。また、当初計画にあった胎盤でD N A メチル化非依存的にインプリンティングを受ける遺伝子の発現制御にUhrf1 が関与するかどうかの検討も終了し、Uhrf1がノックアウトされた胎盤でもD N A メチル化非依存的なインプリンティングは保たれていたので、この制御機構にUhrf1は関与しない事がわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続きUhrf1ノックアウト卵子と野生型精子の受精によってできた初期胚が早期に胎生致死になる原因を追求する。具体的には、Uhrf1のノックアウトが初期発生時に細胞分裂に与える影響を調べる(大阪大学・ 山縣先生との共同研究)。また野生型もしくはUhrf1ノックアウト卵子と野生型精子を用いて体外受精をおこない、核置換実験をおこなって、Uhrf1ノックアウト卵子に蓄積された異常が初期発生に影響を及ぼすのか、発生初期に核内でUhrf1が果たす役割が重要なのかを検討する(理研・小倉先生との共同研究)。発生初期に起こるグローバルなDNA脱メチル化に抗してインプリンティング領域のメチル化は保護されるが、Uhrf1がこのインプリンティングのメチル化保護に関与するのかについて、桑実胚~胚盤胞期の胚の全ゲノムメチル化解析をおこなって調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたため。 大量のデータが蓄積され、コンピューターの処理能力が追いつかなくなったために、業務用のコンピューター(30万円)の購入を予定している。また全ゲノムメチル化解析のため次世代シークエンサーにかかる費用や、マウスの飼育費用、抗体の購入などに予算を計上している。今年度が最終年度なので、研究をまとめるためにかかる論文校閲費用や、投稿費用、学会への参加費用などにも予算を計上している。
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