タンパク質合成に利用されないアミノ酸であるシトルリンの骨格筋タンパク質分解と合成に及ぼす作用を明らかにするために、前年度に確立したC2C12筋管細胞を用いた系で検討した。シトルリンは濃度依存的にオートファジー活性を抑制したが、ユビキチンリガーゼの遺伝子発現には影響を与えなかった。また、mTORの活性を表すS6K1と4E-BP1のリン酸化も増加させ、さらにその上流であるAktのリン酸化を促進した。以上の結果から、シトルリンは筋管細胞においてオートファジー-リソソーム系の活性をdown-regulationすることでタンパク質分解を抑制し、翻訳段階の活性をup-regulationすることで合成を促進することが示された。この調節にはAktを介してmTORが関与していることが示唆された。シトルリンの代謝産物であるアルギニンではこれらの作用が明確に示されなかったことから、分解抑制、合成促進作用はシトルリンそのものによる作用であることが考えられた。 リジンの代謝産物であるサッカロピンのタンパク質分解に対する影響をC2C12細胞を用いて検討した。サッカロピンはリジンと同様にオートファジー活性を阻害することで分解を抑制することが、オートファジーマーカーである活性型LC3の発現と、分解により生じた3-メチルヒスチジンの放出速度から明らかになった。一方、細胞内のリジン濃度はサッカロピン添加で増加しなかったことから、サッカロピン単独でも分解抑制作用があることが示された。このようなタンパク質合成に利用されない代謝産物による調節は、ロイシンの代謝産物であるHMB以外では初めての知見である。 尾部懸垂モデルを使ったin vivoの系でシトルリンの作用を検証した。ラットと7日間の尾部懸垂を施し、廃用性筋萎縮を誘導した。1%シトルリン添加食を与えた尾部懸垂ラットでは、筋肉量などの回復はみられなかった。
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