研究課題/領域番号 |
24614003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 典子 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90251553)
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研究分担者 |
吉川 究 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90400481)
目崎 喜弘 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40431621)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アノイキス誘導 / 細胞外マトリックス / MMP / ビタミンE / 肝線維化 / NASH |
研究概要 |
肝類洞壁に存在しビタミンA貯蔵細胞である肝臓星細胞 (HSC) は、肝臓の線維化において主たる役割を果たす。ビタミンEの一種であるδ-トコフェロールと類縁化合物であるトコールはHSCに対して著明な増殖抑制、アノイキス誘導作用を示した。本年度は肝臓星細胞が基質からの脱着を誘導する分子の同定を目的とし、アノイキス誘導機構を細胞環境の変動に着目して解析を行った。 1.トコールによるHSCの遺伝子、タンパク質発現の変動 トコールは血清非存在下でHSCライン、CFSC-2GとHSC-T6の細胞脱着を5~7時間で誘導し、カスパーゼ阻害剤ではアノイキスが抑制されないことから、基質からの脱着が契機となり細胞死が誘導されることを確認した。プロテアーゼの関与を検討した結果、メタロプロテアーゼの関与が明らかにされ、CFSC-2Gでは顕著なMMP (Matrix Metalloproteinase)-2の産生と分泌が観察されたが、トコール作用後培養液中のMMP-2量は減少していた。またMMPの阻害剤、BB94による細胞脱着抑制も観察され、MMPのアノイキス誘導への関与が確認された。同様の実験からHSC-T6におけるMMPの細胞脱着への寄与はほとんど無いと考えられた。焦点接着キナーゼ (FAK) は、トコールにより分解が促進され、プロテアーゼ阻害剤によるCFSC-2GのFAKの分解抑制と細胞脱着抑制はよく相関した。さらにプロテアソームとリソソーム、両タンパク分解系もトコールが誘導する細胞脱着に関与していることを明らかにした。 2.肝線維症モデル動物の作成 マウスに高脂肪食を負荷すると共に、ストレプトゾトシン投与により糖尿病を増悪させ肝線維化の誘導を試みた。しかし種々のタイプのコラーゲン抗体による病理学的検索の結果、脂肪肝の作成には成功したが、線維化には至らずストレプトゾトシンは脂肪肝を軽減する傾向にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[細胞脱着に関与する細胞環境因子の特定] 初代培養細胞は使用できる細胞数に限界があることからHSCライン、CFSC-2GとHSC-T6を用いてトコールによるアノイキス誘導実験系をセットアップした。同時に細胞脱着を定量的に評価する実験系を確立し、プロテアーゼの関与を評価した結果、MMPの関与が明らかになった。CFSC-2GにおいてはFAKの分解もトコールが誘導する細胞脱着に寄与しており、プロテアソームとリソソーム細胞内タンパク分解系がアノイキス誘導の一因であることを見出した。CFSC-2Gにトコールを作用させ、ジーンチップを用いて遺伝子発現変動を網羅的に検討した結果、細胞外マトリックスを分解するMMP、ADAMTS (a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)の顕著な発現増大、それらの阻害因子であるTIMP (tissue inhibitor of metalloproteinase) の発現減少、さらに線維形成コラーゲンの発現減少が明らかになった。この結果はトコールが肝線維症の治療薬として非常に有望であることを示すと同時に、細胞外マトリックス量の減少がアノイキス誘導のイニシエーターとなることを示している。 [肝臓におけるコラーゲンの免疫組織学的研究] マウス肝臓における抗コラーゲン抗体による免疫染色法と、抗マウス抗体を用いた二重染色法を確立し、線維形成コラーゲンであるI型、III型、V型コラーゲン及び基底膜コラーゲンであるIV型コラーゲンの分布を脂肪肝と正常肝で比較した。両肝臓ともコラーゲンの分布に変化はなく、線維形成コラーゲンは類洞壁と門脈周囲の結合組織に、IV型は類洞壁と血管、胆管周囲に分布していることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
[細胞内因子のアノイキス誘導能の確認] プロテアソームとリソソームにおけるタンパク質分解系が、FAKの分解に関係している可能性を明らかにし、FAKリン酸化からの細胞生存シグナル伝達系に及ぼすトコールの作用を検討する。さらにトコールによる細胞骨格構成分子の構造変化が、分解によるものか脱重合によるものかを解明し、細胞骨格構成分子を繋留している接着斑のFAK分子分解との関連性を検討する。 [細胞環境因子のアノイキス誘導能の確認] MMP、ADAMTSの細胞脱着への関与をsiRNAの導入や、阻害因子TIMPの過剰発現などにより確認する。これらの酵素はプロ体として合成され分泌されるので、培養液中の酵素活性の測定を行いマトリックス分解への関与を証明する。MMPとコラーゲンのプロモーター領域をPCR法により調製し、ルシフェラーゼ遺伝子と連結してリポーターコンストラクトを作成、トコールによる遺伝子発現調節を確認する。特にトコールに対する応答配列の決定を試みる。これらの遺伝子発現調節機構に、ビタミンEの核内受容体とされているPXRが関与している可能性を検討する。 [肝線維症に対するトコールの有効性の評価] 高脂肪食の負荷により脂肪肝の作製には成功したが、インシュリン欠乏により脂肪肝を肝線維化に移行させることが出来なかった。従って再現性をもって肝線維化を誘導できるラットないしはマウスモデルを用い、トコールの有効性を評価する。同時に肝線維症のコラーゲン免疫組織学的検索を行い、異所性に沈着するコラーゲンの性状を解析する。トコールがin vivo でもMMP発現を増大させる可能性があるので、線維化の抑制効果と肝線維症寛解の2つの観点から有効性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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