研究課題/領域番号 |
24614003
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 典子 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90251553)
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研究分担者 |
吉川 究 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90400481)
目崎 喜弘 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40431621)
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キーワード | 肝臓星細胞 / 肝線維症 / ビタミンE / トコール / アノイキス / コラーゲン / MMP |
研究概要 |
肝臓星細胞 (HSC) は肝臓の線維化過程において筋線維芽細胞様に分化形質転換し、コラーゲンなど線維性の細胞外マトリックスの産生能が亢進することにより重要な役割を果たす。ビタミンEの一種であるδ-トコフェロールと類縁化合物であるトコールはHSCに対して増殖抑制能、アポトーシス誘導能を示すことを報告してきた。特にトコールは接着細胞が基質から脱着することを契機とするアノイキス誘導が顕著でHSCライン、HSC-T6とCFSC-2Gに対しても同様の作用が観察された。本年度はアノイキス誘導機構の解析を網羅的におこなうため、ジーンチップを用いた発現遺伝子の変動解析からアプローチを開始した。 プライマリーHSCに形質が近似しているCFSC-2Gに対してトコールを作用させ、ジーンチップを用いて発現が変動する遺伝子を網羅的に解析した。その結果細胞外マトリックスを分解する一群の酵素の発現が増大し、線維形成コラーゲンの発現の低下が認められた。アノイキスのイニシエーションである細胞の基質からの脱着に対し、細胞内部での焦点接着装置の分解が亢進されていることが前年度の結果であったが、細胞外に分泌されるマトリックス分解酵素により基質の分解も亢進していることが示唆された。すなわちトコールはHSCに作用して線維形成コラーゲンを分解し、合成を抑制する機能を有することが示され、肝線維症の治療薬としての将来性が期待できると考えられた。マウスに高脂肪食を負荷させると共に、ストレプトゾトシン投与によるインシュリン欠乏により肝線維化が誘導されることが報告されているが、若年マウスにおいては脂肪肝のみが観察され、コラーゲン組織染色から線維化への移行は認められなかった。脂肪肝から慢性肝炎を惹起させ線維化を誘導するためには、ストレプトゾトシン投与を幼年時に行うか、新たな肝炎惹起因子の投与の必要性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
[トコールによるアノイキス誘導機構の解析] アノイキスは接着細胞の基質からの脱着により開始される。細胞接着装置の分解についてはFAK (focal adhesion kinase) の分解に関して細胞内タンパク分解系、プロテアソームとリソソームの関与を明らかにした。さらにアノイキス誘導機構の解析を網羅的におこなうため、ジーンチップを用い発現遺伝子の変動解析を行った。その結果トコールはHSCの細胞環境を劇的に変化させることが示された。発現遺伝子の変動解析から数種のMMP (Matrix Metalloproteinase) 及びADAM (A Disintegrin And Metalloproteinase) の顕著な発現上昇と線維形成コラーゲンの発現低下が明らかにされた。またMMPの内因性阻害因子であるTIMP (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase) の発現低下、細胞接着に関与するインテグリンの発現も低下傾向にあった。すなわち焦点接着装置の分解のみならず細胞外マトリックスの分解も行われ、接着するマトリックス(基質)の産生も減少してすべての反応系が細胞を基質から脱着させる方向に作用していることが示された。トコールによる細胞脱着に対して、線維形成コラーゲンであるI型コラーゲンと基底膜マトリックスによる影響を検討した結果、I型コラーゲンは細胞脱着を抑制することを明らかにした。[肝臓におけるコラーゲンの免疫組織学的研究] マウス正常肝と脂肪肝における肝臓星細胞の動態を細胞のマーカーであるデスミン、ビメンチン及び分化形質転換した筋線維芽細胞のマーカーであるα-平滑筋アクチンにて検討した。さらに線維形成コラーゲン(I型、III型、V型コラーゲン)及び基底膜コラーゲン(IV型、XVIII型コラーゲン)の局在と染色性を正常肝と脂肪肝にて比較した。
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今後の研究の推進方策 |
[細胞環境因子のアノイキス誘導能の確認] トコールの作用により遺伝子発現が亢進しているMMP及びADAMに関してはsiRNAの導入により、発現を抑制し細胞の脱着に対する直接的な関与を明らかにする。同時にこれらは分泌酵素であることから培養上清における酵素活性を測定し、酵素のマトリックス分解能を確認する。特に発現変動が顕著なMMP-13(齧歯類におけるコラゲナーゼ)とI型コラーゲンα1、α2鎖のプロモーター領域をPCR法により調整し、ルシフェラーゼ遺伝子を用いてリポーターコンストラクトを作成しトコールによる遺伝子発現調節を確認する。さらにトコールの各々の遺伝子における応答配列を決定し比較する。この応答配列をビタミンEの核内受容体とされているPXR (Pregnane X Receptor) が結合する遺伝子配列と比較し、トコールによる遺伝子発現調節機構にアプローチする。 [肝線維症におけるトコールの有効性の評価] 若年マウスに対する高脂肪食の負荷とインシュリン欠乏では、肝線維症モデルの作成に至らなかったので、幼年マウス(生後数日)にストレプトゾトシン投与を行い離乳から高脂肪食の負荷を開始する方法でモデル動物の作成を試みる。この方法で線維化が観察されない場合は多数の報告により線維化誘導が確認されている四塩化炭素を用いてモデル動物を作成する。トコールの投与により線維化の進行抑制効果と肝線維症寛解の両面から有効性の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度未使用額が発生した理由は、科研費の使用期限後3月末に学会旅費に使用する予定であったこと。さらに物品の購入に際してキャンペーン価格が適用され、予算より減額された価格での購入が可能であったことによる。 本年度の使用計画は支払い請求書に記載した通りで、前年度未使用額は3月末の学会旅費と物品費に使用する。
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