研究実績の概要 |
肝臓の類洞壁に存在する肝臓星細胞 (HSC) は、肝炎などの炎症性疾患に由来するサイトカインなどの影響で筋線維芽細胞に分化形質転換し、線維性のタンパク質を多量に分泌することにより肝線維化、肝硬変を誘導する。ビタミンEが肝硬変に有効であるという知見はあるが、HSCに対する作用に着目した結果、ビタミンEの一種であるδ―トコフェロールと化学構造が類似したトコールに著明なHSC増殖抑制、アノイキス誘導能を見出した。また、細胞増殖抑制は細胞の基質からの脱着を契機とする、アノイキス誘導によるものであることを明らかにした。 トコールによるアノイキス誘導機構を明らかにするために、ジーンチップを用い発現遺伝子の変動を検討したところ、細胞外マトリックス(基質)の主成分である線維形成コラーゲン (I型、III型) の発現が低下しており、それらを分解するMMP-13の発現が増大していた。さらにマトリックス構成分子であるプロテオグリカンを分解するMMP-3, 10 の発現も増大し、それらの酵素活性を阻害する内因性阻害因子TIMP-1, 2, 3の発現は低下していた。すなわちトコールの作用により、細胞は基質合成を低下させると同時に、積極的に基質分解の方向に性状をシフトさせており、この性状がアノイキス誘導の契機となる細胞の基質からの脱着を引き起こしている可能性が考えられた。 この仮説を証明するために、基質であるコラーゲンや基底膜ゲルを培養系に添加してトコールによるアノイキス誘導阻害を検討した。コラーゲンは高分子であるため、細胞における強制発現が難しいためこの方法を選択した。その結果I型コラーゲンをコートした場合、明らかなアノイキス誘導阻害が認められ、siRNAによるMMP発現抑制も同様の結果であったことから、トコールの作用は遺伝子発現調節を介してアノイキスを誘導していることが明らかにされた。
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