研究課題/領域番号 |
24614008
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
生山 祥一郎 九州大学, 大学病院, 准教授 (20184393)
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研究分担者 |
渡邉 秀之 九州大学, 大学病院, 医員 (00529886)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞内脂肪滴蛋白 / Perilipin / 食品機能成分 |
研究概要 |
本研究の目的は、細胞内脂質蓄積を促進するperilipin(PLIN)ファミリー蛋白の発現制御により、脂肪肝や動脈硬化など過剰な細胞内脂質蓄積が関わる病態の改善に寄与する食品成分を探索し、その作用機構を明らかにすることである。この目的達成のため、これまでPLINファミリー蛋白のうちubiquitousに発現しているPLIN2 (ADRP)を研究の対象としてきた。しかし我々の別の研究で、炎症刺激による中性脂肪の細胞内蓄積にはPLIN2のみならずPLIN3 (Tip47)も重要であることを見出したので、PLIN3の発現制御を解明することも本研究目的達成のうえで必要であると考えられた。そこで本年度の研究にPLIN3の発現制御機構の解明を加えた。マクロファージ(RAW264.7)では、1) PLIN3の発現は高濃度のインスリンあるいはブドウ糖で発現が増強するが遊離脂肪酸(オレイン酸)では増加せず、逆にPLIN2はインスリンおよびブドウ糖では増強せず遊離脂肪酸のみで増強すること、2)PLIN3の発現はインスリン、ブドウ糖、遊離脂肪酸の同時添加で相乗的に増強するが、PLIN2の発現にはこのような相乗効果がみられないこと、3)この相乗効果にはSrcあるいはPI3 kinaseの活性化が関わることなどを明らかにし、PLIN2と同様、PLIN3の発現制御にも炎症刺激が関わることが明らかになった。したがって、micro-inflammationによるPLIN2およびPLIN3の発現増強を抑制することが細胞内脂質蓄積抑制に必要であり、肝細胞を用いて小胞体ストレスおよび薬物(メソトレキセート)刺激をmicro-inflammationのモデルとして、PLIN2およびPLIN3の発現を抑制する食品成分を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究によりubiquitousに発現し細胞内の中性脂肪蓄積に働く2種の蛋白PLIN2およびPLIN3の発現制御機構が明らかになり、この両者の発現に細胞内のmicro- inflammationが関わることを明らかになった。これらの蛋白のうち、PLIN2の発現を抑制し細胞内脂質蓄積を抑制する効果のある食品機能成分としてPycnogenolを見出しており、その作用機構を解析してきた。PycnogenolのPLIN2発現抑制機構は単に抗酸化作用だけで説明できるものではないと推察されたが、このことはPycnogenolと同様に抗酸化作用をもつ食品機能成分であるcurcuminやastaxanthinではPLIN2発現抑制作用が認められないことからも明らかとなった。そこでPycnogenolおよびその他の抗酸化食品成分で処理した肝細胞に発現する遺伝子の変動を網羅的に解析して、その作用の異同を明らかにすることを現在試みている。一方、研究実績の概要に述べたように、ubiquitousに発現するもう一つの細胞内脂肪滴蛋白であるPLIN3の発現制御機構について解析し、高濃度のインスリン、ブドウ糖、遊離脂肪酸が発現を増強することを示し、PLIN2とPLIN3の発現制御機構に違いがあることを初めて明らかにした。さらに、小胞体ストレスや薬物によって惹起される細胞内のmicro-inflammationによるPLIN2およびPLIN3の発現亢進を抑制する食品機能成分の作用機序について解析している。脂質蓄積に関わる蛋白の多様性から、研究遂行上、当初の研究計画には予定していなかったPLIN3の解析を新たに加える必要性があったが、研究全体の進捗状況としては概ね予定通りに進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
食品機能成分のPLIN2の発現抑制作用が食品成分によって異なることから、これらの食品機能成分で発現変動が異なる遺伝子を網羅的解析でピックアップし、食品成分ごとに変動する遺伝子の分類を試みていく。この作業により、同じ抗酸化作用をもつとされる食品成分において詳細な生理作用の違いを見出し、そのうえで新たな機能成分の分類が可能になるのではないかと考えている。さらに、グループ化した変動遺伝子群を用いたカスタムアレイの作製をめざしている。このようなカスタムアレイの作製を、少なくともin vitroの系を用いた食品機能成分の生理的作用を予測する手段に応用したいと考えている。今回期待する生理的作用としては、PLIN2発現抑制による過剰な細胞内脂質蓄積の抑制による脂肪肝あるいは動脈硬化の発症予防であり、このような病態の制御に有用な食品機能成分を探索することにある。また、見出した変動遺伝子の作用機構について分子生物学的な解析を行い、限られた種類ではあるが、食品機能成分の作用に関する分子基盤の確立をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費は、主としてin vitroの解析に用いる培養液・試薬類の購入、研究成果発表のための学会出張旅費などに充当する予定である。
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