健常者、経腸栄養剤により長期間栄養管理を受けている患者(EN患者)および糖尿病患者(DM患者)から頭髪採取を行い、頭髪中の安定同位体比(δ15Nとδ13C)と微量元素の分析を行った。健常者(Control群)の頭髪中のδ15Nとδ13Cは、各々9.3±0.5‰、-19.1±0.6‰であった。EN患者の頭髪中のδ15Nとδ13Cは10.2±0.8‰、-20.2±1.0‰でControl群に比べて各々高値と低値であった。EN患者の頭髪中のδ15Nと栄養剤の投与量との間には負の相関関係が認められ、δ13Cと投与量との間には正の相関関係が認められた。この結果は、栄養剤の投与量が多いほどδ15Nが減少し、δ13Cが増加することを示唆している。治療を受けているDM患者のδ15Nとδ13Cは、各々9.4±0.7‰、-19.6±0.6‰で、栄養状態が比較的低いと推定される分布域に局在した。食事制限あるいは糖尿病薬の服用などの影響が考えられる。HbA1c、δ15Nおよびδ13Cとの多重相関を検討したところ、δ15Nが低いほどHbA1cが高い傾向が認められた。 EN患者の頭髪中のCa、Fe、Mn濃度は健常者と比べて低い傾向が認められ、必須元素の欠乏患者がいることが予想される。EN患者の頭髪中の有害元素(As、Cd、Hg、Pb)濃度は健常者と比べて明らかに低い傾向が認められ、これはEN剤が有害元素をほとんど含んでいないことが原因である。DM患者の頭髪中のNa濃度は健常者よりも高い傾向を示し、Zn、Fe、CrおよびCu濃度は低い値を示した。一方、DM患者の頭髪中の有害元素(As、Cd、Pb)濃度は健常者と比べて高い値を示した。この原因として腎機能の低下が予想されるが、その詳細については検討中である。また、DM患者のHbA1cと調査した頭髪中の元素濃度との間には一定の相関関係が認められなかった。
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