昨年度、マウスの小腸のクリプトから腸幹細胞を採取し、マトリゲル中において3次元培養し、上皮細胞のみから成るクリプト-絨毛類器官を構築することに成功した。今年度は、この上皮器官を放射線照射した時の損傷関連分子パターンの一つであるHigh Mobility Group Box 1(HMGB1)の放出と、放出されたHMGB1が樹状細胞のような抗原提示細胞へ与える影響を検討した。 3次元培養によって得られたマウスのクリプト-絨毛類器官に、10Gy(1000rad)、30Gy(3000rad)、または100Gy(10000rad)のX線を照射し、その後の培養上清中のHMGB1濃度をELISA法で測定した。そうしたところ照射X線量が30Gyの時に最も著しく、次に10Gyの時に、上清中HMGB1濃度の有意な増加が観察された。しかし、100Gy照射ではHMGB1放出量の増加は認められなかった。一方、HMGB1をマウス腸管膜リンパ節の樹状細胞(DC)にin vitroで加えると、CD11c陽性DCのCD80、CD86といった共刺激分子の発現が増加した。 これらの結果より、X線のような放射線を照射した場合、照射に感受性の高い上皮細胞からHMGB1のような細胞損傷関連分子が放出され、その損傷関連分子によってDCが活性化することが示された。食物抗原を取り込んだDCの活性化はTh2反応などのアレルギー反応を惹起することが考えられる。従って消化管粘膜組織における放射線照射は、食物抗原に対する過剰な免疫反応を誘導する可能性が示唆された。 また、学生などを対象に質問調査を行い、2011年3月の福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症率や重症度について調査したところ、現時点では事故発生前後の有意な差はみられなかったが、今後長期的に追跡していく必要があると考える。
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