研究課題/領域番号 |
24614020
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎国際大学 |
研究代表者 |
深澤 昌史 長崎国際大学, 薬学部, 准教授 (20238439)
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研究分担者 |
榊原 隆三 長崎国際大学, 薬学部, 教授 (30127229)
野嶽 勇一 長崎国際大学, 薬学部, 講師 (30332282)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / 転写因子 / 乳酸菌生産物質 |
研究概要 |
生活習慣病の最大原因である、肥満による内臓脂肪の蓄積を解消する目的で、肝臓における脂質生合成の約7割を担っているといわれる転写因子ChREBPの活性化メカニズムを解明すると同時に、これを阻害し、過剰な脂質の生合成を抑える物質の探索に取り組んでいる。今年度は特に後者に関して、ヒト常在乳酸菌(Bifidobacterium属及びLactobacillus属)を中心とした複合培養から調製した豆乳の乳酸菌発酵物PS-B1の有用性を示すデータが得られた。これまでにも、1)ヒトを対象としたPS-B1の服用試験から、脂質代謝に関する臨床試験パラメータに改善効果がみられたこと、2)マウス前駆脂肪細胞株3T3-L1の分化培養実験において、PS-B1は細胞内蓄積脂肪滴量を濃度依存的に抑制したこと、の2点によってPS-B1が脂質生合成経路を何らかの形で阻害することが示唆されている。今年度はさらに直接的な阻害効果をみる目的で、ラット初代培養肝細胞にPS-B1を添加したところ、高グルコース条件下でChREBPにより調節される脂質合成系酵素(LPK、ACC、FAS)の遺伝子発現がmRNAレベルで抑えられていた。そこでこの脂質生合成阻害効果をin vivoで実証するために、肥満モデルマウスを用いた実験を行った。 【方法】4週齢のC57BL/6Jマウスに高ショ糖飼料を8週間摂取させた後、3%、5%PS-B1及び豆乳含有高ショ糖飼料により4週間飼育し、飼育終了後に全腸管、精巣及び肝臓を摘出し、腸管脂肪量、精巣上体脂肪量及び肝重量を測定した。 【結果】体重増加率、肝重量、腸管・精巣上体脂肪全てにおいて、PS-B1摂取群では濃度依存的に有意な抑制がみられた。なお、豆乳含有飼料ではこれらの抑制効果はみられなかった。 以上の結果より、PS-B1はChREBPによる脂質生合成の抑制剤として重要な候補になり得ると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は主に、これまでに解明された内容を背景に、ChREBPの活性化メカニズムを分子生物学的に解析することになっていた。しかし、別のテーマで行っていた乳酸菌代謝産物が脂質生合成を抑える可能性が示唆されたため、これを確認すべく動物実験を前倒しで行った。その結果、今年度に予定されていた実験計画の進捗状況は以下の通りとなっている。1)活性型・非活性型ChREBPの比較解析―ChREBPのin vitro実験用に用いているマウスHepa-1細胞株においては、ChREBPのグルコース依存的核移行の割合が低く、グルコース濃度による比較が難しいことがわかった。そのため、新たな細胞株の探索の必要性を迫られている。2)簡便なレポーターアッセイ系の構築―上記Hepa-1細胞を用いた実験系のグルコース応答性が悪い原因として、パートナータンパク質であるMlxの発現の低さがあげられる。この問題を解決すべくMlx非依存的なアッセイ系の構築を目指し、Gal4との融合タンパク質を用いた組み換え体を作成中である。3)転写活性抑制部位の探索―Ser140のリン酸化が転写の抑制に関与しているか否かについて、ウェスタンブロッティングを用いて検討を行っているが、現在までのところ大きな差異はみられない。4)パートナータンパク質との相互作用解析と新規スクリーニング―新規パートナーの探索のための、酵母Two-hybridスクリーニング用ベイトを作成した。 以上のように動物を用いた脂質生合成阻害実験は予定よりも早く進捗しているものの、分子生物学的研究は遅れており、総合的にはやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は乳酸菌代謝生産物質PS-B1が、初代培養肝細胞においてChREBPにより調節される脂質生合成酵素遺伝子の転写を抑制することと、マウスを用いた動物実験において脂質生合成の抑制効果を示すことがわかった。しかしその作用メカニズムは全く明らかとなっておらず、少なくともChREBP自身の転写を抑制しているのか、あるいはタンパク質レベルで活性化や核移行の抑制を行っているのかを詳細に解析する必要がある。実験に用いた肝臓のRNAを抽出してあるので、当初は定量的PCRにより肝における脂質生合成関連の転写因子、酵素のmRNA発現レベルを網羅的に解析し、PS-B1が作用する標的を明らかにする。さらに、培養細胞を用いてPS-B1がChREBPの活性化にどのような作用を及ぼすのかを明らかにするためにも、簡便なレポーターアッセイ系の構築を最優先課題とする。それ以外では、現在進行中の酵母Two-hybridスクリーニング、ドミナントネガティブ効果をin vivoで確認するためのトランスジェニックマウス作成用ベクターの構築を行う。また、in vitroにおいてはマウス前駆脂肪細胞株3T3-L1を用いた場合に、最も顕著なPS-B1による脂質合成抑制作用がみられたため、今後は3T3-L1の分化と脂質生合成について、3T3-L1細胞でよく理解されているエピジェネティクス制御やとの関連を中心に解析する。さらに近年、細胞内の酸化還元状態とChREBP活性化との関連についての報告もあるため、抗酸化物質としての生理活性も認められているPS-B1の作用について、抗酸化作用の面からも検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度予算の執行状況については、備品として当初の予定通り高感度ルミノメーターを購入し、ルシフェラーゼアッセイに対応できることとなった。その他は分子生物学的実験が予定よりも実施できなかったため、分子生物学関連消耗品新規購入は定量的PCR関連の試薬程度に留まった、代わりに動物実験の一部を前倒しで行ったため、最終年度である26年度購入予定の実験動物関連支出が加わったが、総合的にみると当初の予定額よりも58万円少ない支出であった。平成25年度は、順調にベクターの構築が進めばトランスジェニックマウス作成を外部委託することで予定支出の大半を占めることとなる(70万円を計上)。それ以外では細胞培養、遺伝子組み換えなど比較的ルーティンに使用する試薬類が殆どであり、本年度からの繰越し分を含めて使用できる予算の大半をこのような消耗品に投入することで、最終的には計画通りの予算執行がなされる予定である。
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