研究課題/領域番号 |
24615009
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研究機関 | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
研究代表者 |
揚山 直英 独立行政法人医薬基盤研究所, 霊長類医科学研究センター, 主任研究員 (50399458)
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キーワード | 霊長類 / 幹細胞 / MRI / 再生医療 / cellular tracking / 磁性体 / 疾患モデル / 移植 |
研究概要 |
昨今、臨床分野では虚血性疾患等の新たな治療方法として、iPS細胞やES細胞、多様な幹細胞を用いた臨床応用の動きが活発化している。その一方で、移植細胞の腫瘍化や患部の悪化、疼痛の再燃等、少数ながらも有害事象の報告が認められている。こうした再生医療等の安全性・有効性を評価するためには、生体内における移植細胞の動態を確認するin vivoレベルのシステムが重要となる。これまでに、移植細胞の体内動態追跡評価法として、MRI装置と超常磁性酸化鉄微粒子等を用いた実験が、マウスやブタ等を用いて行われてきたが、ヒトと近縁な霊長類での報告はなされていない。そこで今回我々は、霊長類であるカニクイザルを用いて、世界初となるMRI装置を用いた細胞動態追跡システムの構築を目指した。 これまでにカニクイザル末梢血より得た有核細胞を用いて、フェルカルボトラン等の超常磁性酸化鉄微粒子(SPIO)による標識・移植を行い、3T-MRIにて撮像を行った。その結果、生体内でのSPIO標識細胞の存在を確認し、組織学的検査においても同移植部位からSPIOを確認することで、移植細胞の定着を証明した。これにより、霊長類においてMRI装置を用いて移植細胞の体内動態追跡が可能である事を実証した。 次いで対象細胞を再生医療等で用いられる骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に変更し、さらに標識をSPIOから蛍光色素コーティングされた磁性体である蛍光磁性体粒子Fluorescent Iron Particles(FIP)に変更することで、より臨床応用に則した手法で動態追跡の条件検討を試みた。MSCがFIPで標識される過程をタイムラプス撮像することにより標識過程の確認を行った。これらの結果をもとに、次年度は再生医療における有効性および安全性の評価系としての細胞動態追跡システムの確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までにカニクイザルの末梢血より有核細胞を分離し、継代培養、増殖法を確立する事に成功している。その後、標識された有核細胞をカニクイザル生体内に移植し3T-MRIにて経時的に撮像を行い生体内でのSPIOの存在を確認し、組織病理学的検索からもMRI撮像で確認された同箇所にSPIOの存在を確認した。これにより、MRIにより移植細胞の動態が追跡可能である事を実証した。すなわち、これまでに霊長類におけるMRIを用いた移植細胞のcellular tracking技術の基礎を確立した。 本年度は対象細胞を再生医療で用いられる骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に変更し、カニクイザル骨髄より分離した細胞の最適な継代培養および増殖方法を樹立した。さらに、より高感度で効率の良い細胞動態追跡を行うために標識をSPIOから蛍光色素コーティングされた磁性体であるFIPに変更し、標識効率やMRIによるT1、T2等の撮像の条件を樹立した。その結果、これまでに心臓、肝臓、筋肉等に移植したFIP標識細胞より顕著なシグナルを検出することに成功している。また、MSCのFIP標識過程を経時的にタイムラプス撮像し、FIPが効率的に取り込まれている像を確認することにも成功した。これにより標識に最適な培養時間の確立に成功し、さらに標識後の細胞を長期観察する事で、細胞の生死に関わらず、一度標識されたFIPが細胞より再放出されることなく細胞内に留まり標識が可能である事も確認している。これらにより、より効率が良く長期に渡る細胞の標識・検出方法が樹立された事となる。今後さらにこれらの技術を発展させ、疾患モデル等の生体内にFIP標識細胞を効率的に移植する方法の模索および、MRI装置での移植後の経時的な撮像、および組織学的検査での証明を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、摘出心にFIP標識されたカニクイザル骨髄由来間葉系幹細胞を筋肉内に移植するというex vivoイメージングの実験を試み、これによりまずMRIにおける撮像条件の最適化を目指してきた。さらに細胞標識実験においては細胞増殖速度が速い段階で、かつsub confluentな状態下でFIPと共培養する事で、より標識率が高くなるという実験結果を参考に、至適条件の確立をし、磁性体の標識濃度および時間を決定した。これらを踏まえて、移植細胞のソースもこれまでに樹立された四肢還流等のより効率の良い方法を試み、またドナーとなる個体の年齢や体格を考慮し、自己複製能、多分化能に優れた質の良い骨髄細胞を採取し、より細胞増殖効率を速めた骨髄由来間葉系幹細胞での分離・培養条件検討を行う予定である。現在、sub confluentな状態でMSC培養を維持したままFIPと共培養する事で、50%以上の良い標識率が得られている。その後は、それらの標識細胞を、筋肉や静脈等の経路を介して生体内に移植し、移植直後および数日ごとの経時的MRI撮像を試みる予定である。現段階の再生医療でも移植経路の影響を検討する事は重要な問題であり、血流を介して移植細胞が体内に拡散する可能性もあることから、本システムにおける様々な条件検討が必要となる。同時に、移植による有効性評価も超音波検査やレントゲン検査、血液検査等の各種検査により実施する予定である。これらを通して評価方法としてのcellular trackingの精度を上げつつ、霊長類における有効性・安全性評価としての細胞動態追跡システムの完成度をより高める予定である。特に、すでに樹立された心筋梗塞等の疾患モデルを利用し、それらへの細胞移植、動態追跡を行い上記の検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の一部を担当するために受入を予定していた学生に急遽病休等が重なり一定期間研究の継続スピードが鈍化した。そのため予定していた物品購入等の支出が出来ず、計上していた金額との隔たりが出来てしまい、次年度使用額が生じた。 本システムを完成させるためにはこれまでに作出・抽出してきた霊長類疾患モデルをより効率的に活用した本研究の推進が必須である。そのために次年度の研究費はまず疾患モデルの維持管理、作出、抽出に関わる費用として使用する予定である。さらに使用する幹細胞等の細胞分離・培養法等はその特殊性や効率化のため、多岐に渡る消耗品に費用が計上される。加えて、細胞採取や細胞移植、病態評価の際にはヒトに準じた麻酔処置や無菌的手術手技、その後の疼痛・健康維持管理等も必須となり、そのための医療用消耗品や設備の整備にも充てられる。また、本システム構築のために尽力する学生やポスドク等への旅費・謝金の用意も必要となる。様々な分野の研究者との活発な意見交換を行う事が必須で、成果を学会等で広く発表する事も重要となるため、その経費も計上したい。以上、本研究の速やかな遂行を行うべく、適切かつ迅速な研究費の使用を心がけたい。
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