細胞移植等による再生医療の実現が目の前に迫ってきている昨今、その安全性・有効性を評価するための独自のシステム構築が求められている。我々はこれまでに生体内における移植細胞の動態を確認するin vivoレベルのシステムの構築を目指し、MRI装置と超常磁性酸化鉄微粒子等の組み合わせにより生体内で細胞動態を追跡出来るシステムを霊長類において世界で初めて樹立する試みを行ってきた。 当該年度までに、霊長類の末梢血由来有核細胞や骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)をターゲットとして超常磁性酸化鉄微粒子(SPIO)および蛍光磁性体粒子Fluorescent Iron Particles(FIP)による細胞標識の至適条件および動態追跡に最適なMRIの撮像条件を樹立した。さらに、今年度はそれら樹立された至適条件によりFIP標識されたMSCを、これまで維持されていた霊長類心不全モデルを対象に静脈経由での移植を施行した。その結果、心機能の改善は認められなかったものの、生体内でT1およびT2強調画像において磁性体反応の見られた組織の検出に成功し、静脈経由で移植された細胞の動態が生体内で経時的に追跡できることを明らかとした。この結果は本システムが霊長類において生体内で細胞動態を追跡出来るシステムとして世界で初めて樹立した事を示すものである。さらに現在検出された組織の免疫染色等詳細な検討も重ねているが、これまでの所見では肺や脳内からも移植細胞が検出されるなど、本システムが安全性評価法としても有用である事が明らかとなりつつある。 今後は樹立した本システムを用いて霊長類モデルにおいてiPS細胞移植の安全性・有効性評価を推進する予定である。さらに本システムをこれまで霊長類に特化して構築された知見・技術と融合させ、まさに実現が迫り来る再生医療のより高度な評価システムとして昇華させるべく本研究を継続する予定である。
|