研究課題/領域番号 |
24616005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村上 靖彦 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (30328679)
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キーワード | 看護研究 / がん看護 / 訪問看護 / 現象学 / ナラティブ / 精神科看護 / 死生観 |
研究概要 |
平成25年度は、がん看護、小児がん看護、訪問看護、助産師といった看取りに関わる領域における看護師・助産師にインタビューを行い、ナラティブについて死生観を現象学の技法を用いて分析をする作業を継続した。 その成果をまとめて『摘便とお花見 看護の語りの現象学』(医学書院)として出版したことが実績の主なものである。これらの業績に対して第10回日本学術振興会賞を頂いた。またこのテーマに関して学会(宗教哲学会)や、看護協会あるいは看護系の大学院(琉球大学・自治医科大学)などの場で口頭発表を行っている。この主題に関しては、ベルギーやチェコなどでも学会発表などを行うとともに、Annales de phenomenologieでフランス語で論文発表を行い、印刷中の論文もある。 加えて、25年度は医療従事者の死生観とコミュニケーションに関して新たな研究も開始した。精神科病院や精神科デイケアにおいて、長期入院している患者さんの看護にあたる看護師や、退院患者のデイケアに従事する医療者にインタビューを行い、かつ参与観察を始めている。この研究は、精神疾患を持つ人々が長期間入院し、さらには老いを迎えるなかでどのようにコミュニケーションを取り、患者さんの社会復帰を目指すのか、あるいは「死生観」の「生」を作り直すとはどういうことなのかを考える研究である。この研究は始めたばかりなので、学会発表を現象学社会科学学会で行うなど、口頭発表を行ないはじめたところである。今後学会発表と論文発表を積極的に行いたい。なお、今研究に関しては所属機関及びフィールドサーク先の倫理審査を受けて許可を頂いている。 またこれに加えて、神経内科病棟(筋ジストロフィー症やALS)への見学なども行った。命にかかわる難病の看護について新たな研究ができないか模索しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
がん看護や訪問看護に関わる看護師のインタビューを分析した『摘便とお花見 看護の語りの現象学』(医学書院)を出版することができ、日本学術振興会賞をいただくなど評価を受けることができた。さらに精神科看護領域において死生観に関わる新たな調査にも着手することができている。
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今後の研究の推進方策 |
精神科看護領域におけるコミュニケーションと死生観の調査を中心に行う。現在、慢性期病棟での参与観察とインタビューを行い始めている。今後、訪問看護・急性期病棟・デイケアなど他の病棟も含めて調査を行い、とりわけ精神疾患の患者さんと看護師がどのようなコミュニケーションをとっているのか、長期入院そして高齢の精神疾患患者の方たちがどのように生活を作り直していくのか、老いを迎えるのか、それを医療者がどのようにサポートするのかを考えてゆきたい。さしあたり、精神医学や精神病理学の医学モデルの理論とは全く異なる患者像・患者とのコミュニケーションを看護師たちが行っていることが見えつつある。また、精神科看護は、要請される技術とチーム医療に関する考え方が異なるため一般科とも大きく異なる看護を行っている。そのうえ、急性期・慢性期・訪問看護とそれぞれ全く異なった対応が必要になるため、非常に複雑な領域である。これらの多様性を描き出せるように総合的に分析してゆきたい。 また、神経内科その他あらたな領域での研究活動を模索している。生死に関わる医療現場は多様であり、さまざまな形の医療があるので、その実践の現象学的な分析を今後も行ってゆきたい。助産師に関する研究についてまだ論文にできていないデータもあるので、その点についても今後再度データを撮り直すことも含めて考えている。 『摘便とお花見』執筆の際には、もっぱらインタビューを分析した。しかし現在始めつつある課題に関しては、参与観察を取り入れている。そのため、方法論に関しても新たに作り変えていく必要がある。この点は西村ユミなどの先行研究はあるものの、対象となるフィールドに応じて柔軟に対応する必要があるため、この点についても考えてゆきたい。
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