本研究では、学校教育の実践におけるアクチュアリティに着目し、実践のケア的意味の生成を明らかにすることを目的に4件のフィールド調査を行い、以下の成果を得た。 1.教育実践におけるケア的意味は、子ども同士によるケアと、そのケアを導く教師によるケアという二重性をもって生成された。 (1)幼稚園3歳児は、他児の対人葛藤に関心を向け、要解決の事態として認識し、3学期には加勢や仲裁などで直接的に当事者間に介入し、状況を変化させようとしていた。教師は2学期頃まで対人葛藤に直接介入していたが、やがて介入児が教師を模倣し始め、教師はその経過を見守った。(2)幼小交流活動において、幼稚園5歳児と小学校1年生に対し2年生は年長児童として自らの役割を意識し、年少児の参加を保障するなど、環境に応じて自らの「参加」を変化させていた。担任教師は2年生に活動の事前準備を十分に行わせ、適宜助言する一方、活動時には直接的な介入を避けていた。(3)小学1年生の学級では、就学移行期にダンゴムシやまつぼっくりなど就学前と共通する素材をケアし、発表と質疑応答を行い、互いの関心や話題をケアしていった。教師は自らの経験から子どもの関心を予測し、その共有に向けて共同注意を促し、子どもの発話を仲介していた。 2.ケア的意味への着目により、いわゆる従来の「指導」に還元されない教師行為に対し、別の解釈可能性を開くことが可能となった。 (1)前掲の小学1年生の学級において、教師は、子どもがもちこむ答えに対しあえて成否を明示せず、その真偽を追究し探索を継続させるなど、「急がない」指導をとっていた。(2)高校1年生の英語科一斉授業の談話において、生徒には規範の受容が求められる一方、自発的な発話や拡散的、逸脱的な内容の発話を行っても教師には応答されやすく学級で共有されていた。生徒の授業参加の「余地」を作り出す、教師の談話行為があった。
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